十二章のイタリア (創元ライブラリ)

著者 :
  • 東京創元社 (2021年1月28日発売)
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感想 : 11
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内田洋子(1959年~)氏は、神戸生まれ、東京外語大イタリア語学科を卒業後、40年来イタリアに在住するジャーナリスト、エッセイスト。2011年に『ジーノの家 イタリア10景』で日本エッセイスト・クラブ賞と講談社エッセイ賞をダブル受賞。現在、通信社ウーノ・アソシエイツ代表を務め、イタリアに関するニュースを配信するとともに、イタリアの風土、社会、人々、食をテーマに、年1~2作のペースでエッセイ集などを発表している。2019年には、日伊両国間の相互知識や情報をより深めることに貢献したジャーナリストに対して伊日財団より贈られる、「ウンベルト・アニエッリ記念ジャーナリスト賞」を受賞している。
本書は、2017年に単行本で出版され、2021年に文庫化された。
私は、『ジーノの家』にはじまり、『ミラノの太陽、シチリアの月』、『カテリーナの旅支度』、『皿の中に、イタリア』、『どうしようもないのに、好き』、『対岸のヴェネツィア』。。。と、著者の数々のエッセイ集を読んできたが、毎回、登場する著者の友人・知人たちの人間模様の複雑さ・多様さに驚き、また、それらを紡ぎ出すことのできる著者の、類稀な感受性、誠実さ、面倒見の良さ、人への興味、柔軟性、忍耐強さ、フットワークと、イタリアに対する愛情に、ただただ脱帽するのである。
本書は、1.辞書、2.電話帳、3.レシピ集、4.絵本、5.写真週刊誌、6.巡回朗読、7.本屋のない村、8.自動車雑誌、9.貴重な一冊、10.四十年前の写真集、11.テゼオの船、12.本から本へ、という12章から成っているが、いくつかの点で他のエッセイ集と趣を異にする。
ひとつは、各章のタイトル通り、広い意味での書物(と人)をテーマに編まれている点である。「テゼオの船」では、「本を読まない人は、七十歳になればひとつの人生だけを生きたことになる。その人の人生だ。しかし本を読む人は、五千年を生きる。本を読むということは、不滅の過去と出会うことだからだ。」と語ったウンベルト・エーコが描かれ、実に興味深いし(「テゼオの船」はエーコが作った出版社の名前)、「本から本へ」では、著者が後に『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(2018年)に著す、トスカーナの山間の村モンテレッジォが取り上げられている。
もうひとつは、著者自身のことが描かれている点である。他のエッセイの多くでは、著者が見、聞き、感じたことがテーマとなっていたが、本書では、著者とイタリア(語)の出会いからこれまでの出来事が随所に登場する。「半生記」とまでは言わないが、ファンとしては、如何にして内田洋子は内田洋子と成り得たのかが垣間見られる、興味惹かれるものだった。
著者の数ある名エッセイ集の中でも、本(書物)好き、内田洋子ファンには、取り分け楽しめる一冊である。
(2021年2月了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月24日
読了日 : 2021年2月24日
本棚登録日 : 2021年1月29日

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