異空間に突然紛れ込んでしまったかのような余韻にいつまでもひたっていたくなる。
ここは世界で一番小さなアーケード。
入口はひっそりとして目立たず、中も古びていて薄暗い。街中にある商店街というより、何かの拍子にできた世界の窪みのような空間。知る人ぞ知る、という感じの特殊な場所。
アーケードで売られているものは、使い古しのレース、使用済みの絵葉書、義眼、ドアノブ、遺髪レース…。一体誰が使うの?と問いたくなる品々だけれど、必要とし買い求めるお客が少なからずいる。買い求めるお客がいる限り、アーケードは消滅することはない。
酒井駒子さんの表紙がアーケードの物悲しさを見事に表現していて、目が離せなくなる。
常に死の香りがまとっていてこの世の寂しさ切なさ哀しみを拭いきれず、けれど頁をめくる指を止めることができない魔力がそこにある。止めたいのに止めれない。そして物語が終わっても続きが読みたくて仕方ない…そんな物語だった。
久々に小川ワールドの虜になってしまった一冊。
ああ、できることならノブさんの雄ライオンのドアノブを回して窪みの中に入り、好きなだけ閉じこもってみたい。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小川洋子
- 感想投稿日 : 2023年1月5日
- 読了日 : 2023年1月4日
- 本棚登録日 : 2023年1月3日
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