日中関係: 戦後から新時代へ (岩波新書 新赤版 1021)

著者 :
  • 岩波書店 (2006年6月20日発売)
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 早稲田大学政治経済学術院教授(現代中国論)の毛里和子の著書。

【構成】
第1章 冷戦のただなかで
 1 サンフランシスコ条約と日華条約
 2 戦後日本の「脱アジア」と対中政策
 3 中国の対日基本政策
 4 民間貿易とその役割
第2章 日中正常化への道
 1 米中の和解
 2 日中正常化のプロセス
 3 正常化をどう評価するか
第3章 中国の近代化と日本
 1 中国の改革開放政策
 2 中国の近代化政策と日本の援助
 3 歴史をめぐる摩擦
第4章 構造変化する日中関係
 1 ポスト冷戦と新たな争点
 2 「戦後は終わった」のか?
 3 中国の新民族主義と「対日新思考」
 4 日本の新ナショナリズムと中国
第5章 新たな関係へ-パートナーになりうるか
 1 2005年反日デモ
 2 悪くなる相互イメージ
 3 日中間の新たな争点
 4 日中関係の新構造
 5 日中関係の再構築のために

 第1章から第2章は1945年から1972年までの歴史過程、第3章以降は1980年代から現在に至るまでの近況を総括的に述べている。

 個人的には前半2章は面白かったが、後半になると淡々とした事実経過を語るというよりは、ジャーナリズムで取り上げられる諸問題をやや学術的に考察するぐらいの幾分紋切り型ともとられられるような内容。


 本書で大きな問題となるのは、やはり日中の戦後補償、賠償問題となってくる。筆者によれば、日中国交正常化の過程で毛沢東・周恩来の個人的な発想として持ち出された「賠償放棄」と「軍国主義者と一般国民を分かつ二分論」は中国国民のコンセンサスを得たものではなく、72年以降、日本の態度に中国国民が不満を持つ一つの要因となっている。

 筆者は戦前の歴史には一切触れることなく満州事変以来の15年間の戦争に対する賠償について議論するが、こういう重要な議題は、まず国際法上の大日本帝国の責任と政府が負うべき賠償の範囲というものを明確にしておくことが必要ではなかろうか?
 中国政府や明らかに思想的にバイアスのかかった研究機関の試算数値ばかりを引用して賠償額を論じる姿勢は、少し軽率だと感じた。

 また、後半全体に関わる問題だが、資料公開上の制約が大きいためもあろうが、1980年代以降の中国指導層の対日政策がよくつかめない、趙紫陽や胡耀邦が穏健な政策をとったという程度のことはわかるのだが、それがどのような政治的背景を持っていたいのか、あるいは鄧小平以後の世代の指導者の対日姿勢の分析など議論をつめる部分は多々あったはずだが、それもない。

 日本の政界・財界・民間は、国交回復以来ODA以外にも様々な政治、経済、文化の交流を推進してきたはずだが、靖国や水掛け論的な歴史認識問題など日中間の友好関係構築からすれば取るに足らない問題ばかりが政治の議題にのぼり、このような文献ですらそれに紙面を多く割く。日中関係論の概説としては片手落ちという印象がぬぐえない。

 もう少し大局的に日中関係を論じる姿勢がジャーナリズム、アカデミズムにもあってよいのではないだろうか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書(岩波)
感想投稿日 : 2011年3月30日
読了日 : 2008年5月2日
本棚登録日 : 2009年11月4日

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