音楽評論家・中川右介によるクラシック演奏家たちの最後の演奏についてのエッセイ集。
【構成】
第1章 音楽は止まったか-トスカニーニ
第2章 第三楽章で止まった指揮棒-バーンスタイン
第3章 何の事件もなかったコンサート-グールド
第4章 交響曲史の「始点」と「終点」-フルトヴェングラー
第5章 「ゴルゴダの丘に向かうイエス・キリスト」-リパッティ
第6章 ブルックナーでピリオドを-カラヤン
第7章 札幌・厚生年金会館にて-カラス
第8章 「俺を聴きたければ地の果てまでついてきな」-クライバー
第9章 ステージも客席も涙した<<悲愴>>-ロストロポーヴィッチ
相変わらずのトリビアなエッセイである。
有名演奏家のラストコンサートというのは、往々にしてレコード会社から死の直後に発売されるものなので、誰でも聴こうと思えば聴くことができる。当たり前のことだが、そのをCDを聴くにあたって、こういう裏の事情を知ったところで、その演奏に変化があるわけではない。既にそれは録音されたものであり、CDは聴く場所と時間を選ばないのだから。
しかし、当のコンサートの会場で奏でられた音楽は、演奏家のみならずその会場に居合わせた人々にとって歴史的に意味のあるものなのである。
リスナーである私たちがその歴史的意味を理解することによって、演奏そのものとは切り離された演奏家の生き様や人生の最期への「感動」が生まれるという見方もあるだろう。その一方で、本来リスナーは音の響きという即物的で物理的効果だけに心を動かされるのではなく、その背後にある文化的な背景もそこに加味されているものだという見方もあるだろう。
ただ、この本を読んだところで、演奏に対する思い入れが変わるとも思えないが…
- 感想投稿日 : 2011年4月9日
- 読了日 : 2008年8月2日
- 本棚登録日 : 2009年12月30日
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