兄弟の血―熊と踊れII 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房 (2018年9月19日発売)
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感想 : 19
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 2016年海外小説部門圧勝の大作『熊と踊れ』に続編が用意されているとは全然知らなかった。あれほどの作品に続編を繋げる馬力をあるとは、この共著コンビ恐るべし。実は本作は二つの作品でセットした二部作との構想を初めから作者らは持っていたらしい。しかも一部は実際にあった事件を元にし、二部は完全なるフィクションで。そのフィクションの第二部は、実際には起こっていないが、起こったとしてもおかしくないくらい自然な筆力で描かれてゆく。

 前作を受けて兄弟も夫婦も親子もばらばらになったところから始まる本書。家族たちの不本意な再会。焼け跡の亡霊のように復活する長兄。彼の犯罪へのさらなる意志が周囲を揺り動かす。兄弟たちのそれぞれの境遇、反応などは前作と同じようにはもうやれない、やりたくない、という新しい世界への意志で長兄を拒絶する。迷う父。断固たる母。家族の構図はこの作品でも危ういままの綱渡りである。

 彼らを追う側の捜査官の兄、しかももと受刑者という形で、新たなキャラクターが加わる。新たな犯罪の推進力。新たな兄弟の葛藤劇が物語に重なる。二つの兄弟の葛藤が世界に新たなコントラストを与える。

 そして作者の飽くなき新手の強奪へのアイディアが凄まじい。読み手の想像力を軽く凌駕する犯罪イマジネーションに感服。前作で手に汗握った数々の犯罪シーンが今また蘇る。悪夢の再生。跳梁する新手の策略。家族の間に張り詰める緊張。

 何よりも劇的要素を高めるのは悲劇だ。本書でも過去が語られる。前作の過去の続編が、現在の緊迫の中に挿入される。父の暴力。母の傷。兄弟の震え。離反。再会。それらが彼らのネガティブなエネルギーだが、再生への希望を持つ兄弟たちと、犯罪への拘りを捨てぬ長兄との溝は深まる。その溝がカタストロフへ向けて疾走する。

 そして思いがけぬ終章は、ぐさりと読者の心に刺さってくる。運命を辿った物語は、その運命から逃れることができぬとでも言うかのように。兄弟たちの慟哭も虚無も一まとめにして巨きな歯車がぎしりと動く。骨太の作品の第二部であり、終章である。完璧に近い前作を超えられるとは思えないまでも、個性的な彼らへの再会が叶えられる歓びは何物にも代え難いだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: クライム
感想投稿日 : 2019年2月28日
読了日 : 2018年9月26日
本棚登録日 : 2018年12月18日

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