フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳――いま、この世界の片隅で (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2014年2月21日発売)
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 結婚や交際の申し込みを断られた腹いせに硫酸を顔にかける。

 どうしてそんなひどいことができるのだろう。どうしてそんなひどいことをした人間が罪に問われないのだろう。


 パキスタンでは年間150人から300人くらいの女性が、硫酸をかけられる事件が発生しているらしい。それも氷山の一角で、地方の村では警察に被害届けを出さずに隠れるように生きている女性も多いという。


 男のプライドを傷つけた報いとして、生き地獄を味わえという理屈らしい。
 
 全くわからない。殴るとか、刺し殺すとかは日本でも頭のおかしい幼稚な奴はやるが、顔を焼くんだから、これはたぶん宗教観からくる報復なんだろうと思う。


 ペットでもなく・・・虫でもなく・・・なんだ? 女性は人形か? 所有物だから壊してもいいということか?


 男の馬鹿な頭を矯正するより、これはまず国家が厳罰化して男の頭を殴らないと、この犯罪は無くならないと思う。


 
 被害を受けた女性の写真は衝撃だ。被爆者の写真のようだ。被写体になった女性たちも本当は写真を撮られたくないのかもしれない。
 しかし同じ女性として被害女性に寄り添うように取材した著者の意図が通じたのだろう。取材に応じ、このあまりにひどい現実を世界に発信することに協力する。


  被害女性たちの生活も詳しく取材している。化粧をしたり、おしゃれをしたり、と女性らしい姿もとらえるが、それは家の中でのこと。外に出るときは顔全体を覆って、けっして顔を出さない。家の中での姿をとらえることができたのは、やはり著者が女性だからだと思う。


 シリアで亡くなったジャーナリストの山本美香さんも戦火の犠牲になっている女性を取材し続けていた。女性にしかできない取材というのは確かにある。


 
 あと、たぶんこの著者が日本に報道して有名になったんだと思うけど「キルギスの誘拐婚」の章がとても興味深かった。


 長くなるから詳細は省くが、誘拐婚で結婚した80過ぎの老夫婦の話がこの不可解な伝統を一刀両断しているところが面白かった。
 「いまの誘拐婚はただの流行だ」


 相手の気持ちも考えず、強引に相手を攫うなんてことはしているのは今の若者だけだという。昔は親が決めた許嫁と結婚するしかなかった。愛し合っている二人の気持ちより、家のほうが大事だった。それが嫌で男は女を許嫁と両家から「攫った」 要するに駆け落ちみたいなものだったらしい。


 それがどうしてこんなひどいことが”伝統”と思われるようになってしまったのか。
 もし、これを昔から伝統として報道、紹介している媒体があったら、それはがセです。


 誘拐婚は犯罪として重い量刑が課せられるようになったらしいので、早く無くなればいいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年8月31日
読了日 : 2016年8月31日
本棚登録日 : 2016年8月31日

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