広島で被爆した作家の私小説。
原爆小説としては井伏鱒二の『黒い雨』などが有名だが、この作品は描写が淡々としていて悲惨さを感じない。
苦しいとか悲しいとか、そんな人間的な感情さえ、原爆という悪魔の兵器は破壊してしまったということがわかる。
現代人の目から見れば作家が見ている情景はまさに悲惨そのものだ。しかしそれを悲惨なものととらえることすらできず、まるで電車の窓から外の風景を眺めているかのような描写はどこまでも冷めている。
人間が痛みを感じることができなくなることほど深い病があるだろうか。
屍の街に書き記されている世界は、まさに痛みを痛いとも感じることのできない地獄で、戦争がもたらした麻痺の恐怖に読者は絶望するしかない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2011年6月20日
- 読了日 : 2012年8月11日
- 本棚登録日 : 2011年6月20日
みんなの感想をみる