19世紀の米作家トマス・ブルフィンチによる神話入門書。1913年の翻訳時には、夏目漱石が序文を寄せている。
Wikipediaによると、翻訳者の野上弥生子は夏目漱石の門下生と結婚した縁から作家デビューし、1985年に99歳で亡くなるまで文壇で長く活躍したとのこと。っ全然存じませんでしたスミマセン。原書が1855年、その翻訳が1913年で、その後改訳で手を入れられているとはいえ、さすがに古めかしい雰囲気の漂う本書。しかし手にとってみると、文章自体は読みにくくはない。ただ翻訳はいいとして、やはりギリシャ神話は人物名が多すぎて、ある程度知っていないと読む進むのはなかなか大変。とはいえ、結局読まないと人物名も覚えられないわけで。そのあたりの、神話の世界に入っていく上でのジレンマみたいなものを、できるだけやわらげてくれる入門書として、本書は優れたものではないだろうかと思う。巻末にはギリシャの神々の系譜図も載っており、さらにインド・北欧神話の概略も把握できる。
後半ではホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』、ウェルギリウスの『アエネーイス』のダイジェストが語られる。かなり大幅にカットされているにも関わらず、これだけでもかなり面白い。自分は『アエネーイス』のみ未読なのだけど、「これオデュッセイアより面白くね!?」となり、がぜんウェルギリウスに挑戦する意欲が湧いた。
ギリシャ・ローマ神話は、神にせよ英雄によ、その人物が語られる短い文面に濃密なドラマ性が含まれており、どれ一つ取っても詩歌や演劇に小説、今日で言えば映画や漫画などに広げられる普遍性を持っている。さらに人物単体での魅力のみならず、そこにまったく別の人物の物語が挟み込まれてくるのが面白い。そっちはそっちで濃密なドラマがあるなかで、思いがけないところでつながっている驚き。そういった相互性がいくつも複雑に絡み合って神話世界を構築しているのだなと思うと、読めば読むほど沼にハマりそうな奥深さを感じた。
なお、本書と、それに続くブルフィンチのアーサー王伝説の著作も『中世騎士物語』として野上弥生子の翻訳があり、どちらも大久保博という方の新訳がある。
- 感想投稿日 : 2023年4月10日
- 読了日 : 2023年4月10日
- 本棚登録日 : 2022年5月1日
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