人間の条件 (ちくま学芸文庫 ア-7-1)

  • 筑摩書房 (1994年10月5日発売)
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現代では、人が「必要」から解放され、自由のままに自分が自分であることを表現できる「公的領域」が無くなってしまっている

■本書のメッセージ
・人間は「労働」「仕事」「活動」という3つの活動力で、人間は環境に関わる
・かつてギリシアのポリスにおいては、「活動」が公的領域でなされた。言論によって、自分が何者であるか、他者と異なるということを示していた
・しかし、現代にかけて、公的領域は消滅した。人間の自由な活動は無くなり、生命維持のための必要にかられた労働偏重の世界となっている
・公的領域は無くなり、私的領域が全体に拡大しつくした現代において、本当に、個人本来が自由に生き、行動をすることは極めて困難となっている

【感想】
 生命維持の活動に追われていて、人間本来の活動ができていないのでは、という主張には納得する。これだけ働かないと生きていけない社会はどこかおかしいと思う。現代はどれだけの人が自由さを感じているだろうか。起きている時間の大半を仕事や労働に費やしている。社会のシステムが、それを人々に強いているなと思う。 

 哲学や社会思想家の基礎知識と、偉人たちの論理が自分のアタマの中で整理できていないと、読むのに大変苦労する。哲学科の大学4年生か修士ぐらいの前提知識が要求されている気がする。アリストテレス、プラトン、マルクスなど、有名な哲学者や思想家をたびたび引用しながら語れるが、そもそもその偉人たちが哲学界でどういう位置づけたるかを知らないと、筆者の主張とどう対比されているのかが読み取れない。

 分厚い哲学書は初めて読んだ。読書会で3回で読んだ。自分の主張の正当性をアピールする手法が、社会科学と異なることは、私にとっての発見だった。とにかく文章を重ねて綿密に論理を練る。過去の偉人たちの主張を借りながら、自分のコンセプトを述べていく。データを使ってサポートするのではなく、偉人や有名な書籍の言葉を使いながら論旨展開を行う。そこそこ説得力はあって、「まぁそうかもな」とは思わされる。
 社会科学者の研究は、こういった哲学者たちの作ったコンセプトや問題意識の延長線上にあるのだろうな。

 読んでもここまで理解が困難な文章は初めてだったかもしれない。著者はドイツ語を母国語として、英語で書いたというから仕方ないのかもしれないが。文章が極めて下手なので、人に薦めづらい。主張やコンセプトは練り上げられているから、惜しい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月11日
読了日 : 2022年8月11日
本棚登録日 : 2018年7月8日

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