ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

著者 :
  • 講談社 (2012年4月18日発売)
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友人にお借りしている「ネットと愛国」をやっと読み始める。ネットを中心に、こうした言論が広まった原因について、少しでも知見が深められればと思う。

テレビが影響力を持ち過ぎている、という認識が漫然と持たれていた頃(2001年)に大学でメディア学を学び、その間にネットメディアが爆発的に普及していった。そして気がついたらメディアの状況が大きく変わっており、ネット右翼が登場していた。大学入学当時、今の状況など想像し得ただろうか。

そういうメディア状況の変化を念頭に置きつつ、読んでいきたいと思う。

主義主張は別として、彼らがネットで「オフ会」して同志になっていくというのは、我々の世代ではごく当たり前のことなのよね。北海道で保守の考えを持った人がいるなんて…という喜びを語っているかたの心情は、なんか分かるw

ヲタク文化がこれほど広まったのも、在特会が広まった構造とほとんど同じだと思う。テレビ等のメインメディアで取り上げられることがなく、人に言えない趣味だったのが、ネットを見たらこんなに同志がいた…、という。そのことが自信になり、また同志たちが集えるようになって、より先鋭化するという。

私自身、ネットを通じて人々が自分の趣味を肯定的に捉えられて、また普段知り合えない仲間に巡り会えるということをすごくポジティブに捉えている。だけれど、当然のごとく闇もあるのだなぁ。

読了。若い頃にインターネットが無かった世代にとっては奇異な存在にしか見えないだろう「在特会」を、1964年生まれの著者があくまで「普通の若者達が所属する組織」として描いた点が面白い。著者と同じ世代の人たちが読んだら、登場する若者達の普通さに驚くのではないか。

1983年生まれで、学生時代からインターネット文化に親しんでいる私にとっては、なんとなく「予想した通り」の会員像だった。こうした普通の人々が、インターネットで極端に差別的な言動をしていたり、根拠の薄い陰謀論を信じたりということは、よくあることだとなんとなく知っている。

そして、彼らの行動は極端だからこそ奇異に映るが、その後ろに無言の賛同者がいるからこそ怖い、という点について、著者と全く同意見。そのことを、我々の世代ではなく、上の世代の方が書かれていることに意味があると思う。ネットを見ない人と見る人で、文化が大きく違ってしまっているので。

それにしても、インターネットの「わかりやすい言動」と「仲間内での悪目立ち」が絶賛されるという性質について、改めて思い知らされるのであった。

個人的には、ネットは「同士の少ない趣味」を持った人々が集まり、世間の目を気にせずに堂々とできる状況を作ったことに大きな価値があると思っている。ただ、それが「世間と自分が違う」ことを外にアピールして、その行動が仲間内から評価される...という段階になると妙なことになる感じがある。

自分自身はそういう「悪目立ち」の極端さは苦手なところがあるのだけれど、そこに惹かれてどっぷりいった方々の姿を知ることができたのは、とても面白かったし興味深かった。そしてもちろん、彼らが特別ではなく、自分と地続きであるからこそ、自分を客観視することを意識していかんとなぁと。

なんかまとまらないけれど、在特会というネット文化が生み出した組織を、ネットが生み出した現象としてではなく、あくまでそこに所属する個人に焦点を当てて描いているところにこの作品の面白さがあるのだろう。読み応えのあるルポルタージュでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2012年7月11日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年7月11日

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