「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

  • ダイヤモンド社 (2017年2月17日発売)
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本書は「はじめに」でも記載されている通り、因果推論の根底にある考え方を徹底的にわかりやすく説明するために執筆された、因果推論の「入門の入門」である。
これまで因果関係と相関関係という言葉を同じように使ってきたが、明らかに因果関係が証明されているもの以外に取り組んでも期待した結果が得られないため、今後はノウハウ本や講演会などでは、その方法が因果関係に基づいているかを見極めて、取り入れる必要がある。


・済学では、「2つのことがらのうち、どちらかが原因で、どちらかが結果である」状態を、因果関係があるという。つまり、体力があるという「原因」によって、学力が高いといいう「結果」がもたらされたのであれば、この関係は因果関係だと言える。一方で、「2つのことがらに関係があるものの、その2つは原因と結果の関係にないもの」のことを相関関係があるという。相関関係の場合、「一見すると原因のように早えるもの」が再び起きても、期待しているような「結果」は得られない。因果関係と相関関係をきちんと見分けることが重要なのである。因果関係と相関関係を混同してしまうと、誤った判断のもとになってしまう。

・因果関係が存在しないことの何が問題なのか、と思う人もいるだろう。メタボ健診を受けないより受けたほうが、テレビばかり見るよりほどほどにしたほうが、偏差値の低い大学よりは高い大学に行くほうがましだろう、と考える人もいるのではないか。しかし、私たちが何か行動を起こすときには、けっこうなお金や時間かかかることが多いということを忘れてはならない。因果関係があるように早えるが、実はそうではない通説を信じて行動してしまうと、期待したような効果が得られないだけではなく、お金や時間まで無駄にしてしまう。そのお金や時間をきちんと因果関係に基づいたことに用いれば、よい結果が得られる確率ははるかに高くなるだろう。

・因果関係なのか相関関係なのかを正しく見分けるための方法論を「因果推論」と呼ぶ。日常生活の中でも、因果関係と相関関係の違いを理解し、「本当に因果関係があるか」を考えるトレーニングをしておけぱ、思い込みや根拠のない通説にとらわれることなく、正しい判断ができるだろう。


・2つの変数の関係が因果関係なのか、相関関係なのかを確認するために、次の3つのことを疑ってかかることをおすすめしたい。その3つとは、
1.「まったくの偶然」ではないか
2.「第3の変数」は存在していないか
3.「逆の因果関係」は存在していないか
である。
この3つが存在しないということを、どのように証明すればよいのか。その方法が、現実と「反事実」を比較することだ。反事実とは「仮に〇〇をしなかったらどうなっていたか」という、実際には起こらなかった「たら・れば」のシナリオのことを指す。現実に起こったシナリオを「事実」というのに対して、事実と反対のことを思い浮かべるという意味で、「反事実」という。
・因果関係の存在を証明するためには、原因が起こったという「事実」における結果と、原因が起こらなかったという「反事実」における結果を比較しなけれほならない。ただし、「だいたい同じ」を「比較可能」と呼ぶことはできない。

・素晴らしい偉業を達成した人のサクセスストーリーは、事実の部分だけしかとらえておらず、反事実はわからない。それにもかかわらず、事実の部分だけを見て、あたかも因果関係があるかのように錯覚し、やみくもにテレビを見るのを禁止したり、やたらに健診を受けたりしたら、偉業を達成するどころか、ただ単にお金や時間のムダ遣いになってしまう力もしれない。

・因果関係を明らかにするための方法は1つではない。しかし、それらの方法に通底している目標は、「比較可能なグループを作り出し、反事実をもっともらしい値で置き換える」ということなのである。

・経済学で使用するエビデンスという言葉は、因果関係を示唆する根拠のことである。このため、経済学者は、単なるグラフやチャート、アンケートの結果などはもちろんのこと、単に相関関係を示したのにすぎない分析のことをエビデンスと呼ぶことはない。

・エビデンスが高い順は以下の通りです。それぞれの詳細の説明は省力する。
1.因果推論の理想形「ランダム化比較試験」
2.たまたま起きた実験のような状況を利用する「自然実験」
3.トレンドを取り除く「差の差分析」
4.第3の変数を利用する「操作変数法」
5.ジャンプに注目する「回帰不連続デザイン」
6.似た者同士の組み合わせを作る「マッチング法」
7.すでに手元にデータがあるときによく用いられる「回帰分析」

・貧困アクションラボは「ランダム化比較試験の専門機関」とも言うべきもので、ランダム化比較試験を用いた研究ばかりしているという徹底ぶりだ。彼らは「政治的流行に左右されやすい政策を、エビデンスに基づくものにする」という目標を掲げ、ランダム化比較試験を「政策評価の理想形」と呼ばれるまでにその地位を押し上げることに成功した。経済学では、因果推論に基づいて政策の効果測定を行う研究領域のことを「政策評価」と呼んでおり、近年その体系化が急速に進展している。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自己啓発
感想投稿日 : 2017年12月16日
読了日 : 2017年12月16日
本棚登録日 : 2017年12月16日

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