大東亜戦争中の物語です。この戦争が舞台ということは、殺伐としていたり戦時中の窮乏生活を描いているのかと思いきや、語り手の梶やその友人の高田は著名な作家で浮世離れした生活をしており、主人公の栖方は若き天才で特権的な待遇なので、戦時中にもかかわらずレトロでのんびりした雰囲気。それでも最後の方では空襲が激しくなってきて疎開したりしています。
栖方は不利な戦況を逆転させるほどの秘密兵器を開発しているということです。それほどの重要な人物なのに、憲兵に監視されたり刑務所に入れられたりと、なぜか扱いが悪い。
「あれは僕の同僚ですよ。やはり海軍詰めですがね。」
「あッ、黙っているな。敵愾心てきがいしんを感じたかな。」
「もう僕は、憎まれる憎まれる。誰も分ってくれやしない。」
「日本で最も優秀な実験室の中核が割れているのだ。」
総力戦のはずの戦争で内部が派閥争いしているようだ。
まるでファーストガンダムのジオン軍のようです。
それでは戦争に勝てるはずがない。
本作品では栖方が特殊な天才だということは分かりますが、語り手の梶も有能で感性豊かのようです。
作家・俳人ながら数学にも強いようで、栖方に数学論を挑んだりしています。
また、訪問者の足音から訪問者を推理する習慣があるようです。
「僕はこれから、数学を小説のようにして書いてみたいんです。あなたの書かれた旅愁というの、四度読みましたが、あそこに出て来る数学のことは面白かったなア。」(栖方の言葉)
栖方と梶、繊細な天才二人のぶつかり合いです。
本作品は最初から終わりまで非常に面白く読ませて頂きました。
栖方が本当の天才なのか狂人なのか、栖方が研究していた兵器はどこまで実現していたのか、最期までよく分かりませんでした。
本作品の文体も繊細で、皆まで言わないというか、何かほのめかされているというか、行間を読むことが必要で、本当のところ梶がどう思っているのか、私にはよく読み取れないところがありました。
しかし、横光利一の文体は心地良いと感じました。
横光利一はよく川端康成と並べて名前が出てきます。
私は川端康成の文体は苦手なのですが、横光利一の文体は好きになれそうです。
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20171005/p1
- 感想投稿日 : 2017年10月5日
- 読了日 : 2017年10月5日
- 本棚登録日 : 2017年10月5日
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