東京スタンピード

著者 :
  • 毎日新聞社 (2008年12月13日発売)
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本棚登録 : 71
感想 : 13
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これは著者の処女小説なのだと思うが、構成や人物造形、台詞、その他の外形から判断して、小説として完成されている、とは正直言いにくい。探せば粗はあるし、ストーリーを楽しむ類の小説ではないのだが、それでも一気に読めたのはエピソードのリアリティ。例えば電車の切符を無くして、主人公が初乗り運賃の支払いを拒否して逮捕される場面。個人的にも経験があるのだが、駅員のとても客商売とは思えない対応に仰天したことがある。「社会的ストレス」の高まりをうまい切り口で見せ、小説の背景に説得力を与えている。
感想は物語の中に出てくる架空の映画『碑』に対する小説内の評価とも重なり合う部分があるのだが、非常にメッセージに特化した小説である、ということ。著者の危機感に対して読み手がどれほど共感できるかにこの小説の評価はかかっているだろう。そのメッセージとは、著者の文章に馴染みのある読者であれば、おそらく帯の文章を見ただけでもピンと来るはず。
でも本当は「森達也って誰?」という人にこそ読んで欲しい。著者があえて小説という形式を選んだ理由もそこにあるとにらんでいるのだが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年1月2日
読了日 : 2009年1月3日
本棚登録日 : 2014年1月2日

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