プリズンホテル 3 冬 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2001年9月20日発売)
3.90
  • (558)
  • (522)
  • (651)
  • (33)
  • (5)
本棚登録 : 4169
感想 : 330
5

今回の物語は、また角度を変えて、生と死を描いたもの。一般社会での価値体系よる一元的な評価だけでは人間は測れないということを、アウトローの任侠と触れることで解体し敷衍してきたのがこのシリーズ。しかし、そんな異なる価値体系、見えや粋、面子と言ったものを大切にして生きている男たちも、死を前にして、命と向き合うと形無になってしまう。
『死にたいことと、死んでもいいってことは、全く別物』という言葉の重さを知る。
イジメを苦にする少年や次作を求める編集者の姿から、生きることは、苦しく、さまざまなことを縁にして人は生きていることが浮かび上がる。その一方で、その命をめぐる、マリアと平岡の対立、そして山男の姿勢に命の尊厳、峻厳さを改めて気づかされる。

命は儚く頼りない。が、とてつもない力強さと光をも同時に宿している。
そんなメッセージを貰う生命賛歌の物語だった。

そして、そんな中で、徐々に主人公の作家の内面が前に出てくる。子どもで止まってしまい、愛情表現の方法を知らぬその姿に、漸く共感できるとっかかりが見つかった。次巻、最終巻で、この作家の魂も救われるのだろうか。

シリーズものながら、全く異なる展開でワンパターン化しない浅田次郎の筆力を感じさせられた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年11月23日
読了日 : 2021年11月21日
本棚登録日 : 2021年11月21日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする