吉里吉里人(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1985年9月27日発売)
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本棚登録 : 830
感想 : 52
5

下巻に入り、更にテンポアップ。面白さにグイグイのめり込む。吉里吉里国の独立の戦略である、医療立国、金の隠し場所に迫る。
相変わらずの言葉遊びと、荒唐無稽のストーリーだが、段々と中毒になってきた様に面白いと感じる。
そして、一気に物語はラストのクライマックスへ。
ラストで、この物語を紡いできた記録者がキリキリ善兵衛であり、百姓どもに朝が訪れることを待ち望んでいたことが明らかにされ、この物語が、百姓の解放を通底とした独立物語であるというテーマが浮き上がってくる。
ここで言う百姓が朝を迎えるというテーマは、現代消費社会、国際分業といったシステムから降りて、自給自足をしながら文化を守り医療を享受し独立して生きていくという、自然資本によって生きるローカリズム宣言や、半農半X、ダウンシフターズの生き方に通じるものだと気がつかされる。バブル期前の昭和56年時点で、2020年現在、走りとして動きはじめた自然資本、ローカリズム宣言、ダウンシフターズといった運動の主題を、吉里吉里国独立物語として描き出した作者の力量に唖然とする。そして、ラストまで、そうした消費社会システムからの解放、自然資本に則った定常社会の実現を目指すという主題を感じさせずにエログロナンセンスの装いで娯楽小説として描き出したことも驚愕。
喜劇として描かれてきたこの物語が、吉里吉里国独立の失敗、自然資本に基づく定常社会の確立という挑戦の失敗、すなわち、百姓が朝を迎えられなかったという悲劇に終わったことを、とても残念に思う。
喜劇が、悲劇やシリアスを描き出したというところで、岡本喜八の喜劇を見たような満足感を味わえた。
上巻で辞めずに、読み切って良かった!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年11月24日
読了日 : 2020年11月24日
本棚登録日 : 2020年11月24日

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