キミは珍獣と暮らせるか? (文春文庫PLUS 40-26)

著者 :
  • 文藝春秋 (2007年10月10日発売)
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本棚登録 : 87
感想 : 15
3

1.
犬で言うとパグ、間抜けでブサイクな動物が著者の好み。あまり凛々しい動物は出てこないことを念頭に置いて。

「僕の場合はっきりと自分の好みというものが分かっている。ニュアンスやテイストでいえば、「まぬけ」である。「バカ」である。「何考えてんだかよく分からん」である。形でいうと「カッコ良くない」「頭が大きい」「顔が細くない」「目が離れている」「手が短い」等である。」
「ためしに今度僕の店に来てみるといい。何人か女の子が働いているのだが、みんなこのものさしにかなったヤツばかりである。」
「そのものさしにかなってないと、たとえどんなにその人が仕事ができてもいい人でも、どっか頭で感心してるだけで、性根の部分でまるごと好きになってあげられないのである。」

2.
ただし、絵がなく、容姿についての描写も少ないため、「へんないきもの」のような面白さはない。

「ハナグマなんて体は大きいが大人になってもほんとにカワイイ。」
「シマテンレックやズグロテンレックは、ハデなシマもようが入っていてキレイということなのか、わりと出回る。」

ハナグマってなんだ。シマもようってどんな。
Google画像検索を待機した状態で読み進めないと、読者は置いてけぼりをくらう。

3.
動物の飼い方についてはさすがにプロ。
詳しいので、参考になる点が多くある。

「動物はウソつかない……それは動物が自分にウソつかないだけで、他人のことはダマシますよ、ヤツら。もちろん、あなたのことも。」

「僕は、この動物のデータを持ってないから薬は出せないよ」とキッパリ言われた。さらに「この状態だと三日以内に死ぬかもね」とズバッと言われた。僕は、悲しかったがその一言で先生を信頼することにした。僕が最もイヤなのは平気で知ったかぶりをする獣医だ。平気で注射を打って、動物を死なせてしまう獣医も世の中にはたくさんいるのだ。」

「結局そのワオキツネザルは、その性格をとても気に入ってくれた素晴らしいご夫婦が、マンション暮らしをやめ、サルのために田舎の庭つき一戸建てを借りるというので売りました。サルには六畳一間の専用のねぐらと十畳のリビングと、そして日なたぼっこできる庭があたえられ、今でも元気にやってます。」

「夜行性の動物、中でも目や耳の大きな動物は、小さな音、かすかな光に当然敏感なわけだ。まぶしい光は人間の百倍まぶしく、大きな音は人間の百倍うるさいと思っといた方がいい。」

「小さく、これといって強力な武器も、すさまじい繁殖能力も持たない動物にとって、身を助ける最大のものが、その臆病さ、警戒心なのである。」

「あとは勝手にカーテンと戦ったりしている。僕は僕で知らん顔してTVみてたりする。無視してやるのも大事で、上手に無視のできる人の方が動物は安心する。」

「僕はしつけもいっさいしない。向こうの自分勝手さを全部のんでやることにしている。」

「もう人間が飼うこと自体、実に人間の身勝手なわけだ。だから、それ以上の要求は酷だと思っている。」

「つかず離れずといった距離をキープしつつ、時々でも向こうがこっちを求めてくれればメッケもんである。全然求めてくんなかったら、あーオレは好かれてねーなーと思うだけである。しょうがないから、その動物がエサを食べてる時、あんまりその動物は見ないようにしながら、となりで同じエサを食べてみたり、相手が毛づくろいをはじめたら、僕もちょっと離れたところで毛づくろいをしてみたりする。ま、そんなことに意味があんのかわかんないのだが、そうこうしてるうちに、なんとなく味方だとは思ってもらえることが多い。もちろん、これはあくまでも僕の考え、僕のやり方だが……。」

このへん「飼い方の章」としてまとめて、
動物については名前、注意点を表にしてくれていたら、と思う。

4.
ちなみに1章はまるまる読み飛ばして問題ない。

いくら「覚悟がないなら飼うな」と言ったところで、飼う人はその時点では「覚悟しているつもり」なので無意味である。
里親募集のサイトを見れば、引っ越しとともにペットを捨てる人のいかに多いことか、そして自己愛に満ち満ちて、どれほど独善的であるかがわかる。

また売春と人身売買を一緒にしているが、自主的か否かによって大きく異なる。
性に関することは売春だけでなくアダルトグッズショップであっても、「なんとなく後ろめた」くなるのは、社会通念上それがタブーとされているからだ。
そして、人間の人身売買について、というか、奴隷制度については、南北戦争の結果、廃止になっただけの話。当時、奴隷制度に恩恵を受けていた南側の白人は猛反対した。
いまだに、知っている限りでも東南アジアでは人身売買が組織的に続けられており、たびたび結構な数の逮捕者が報道されている。

ペットは、ペット制度のために不利益を被る人もいなければ、ペット自身がデモを起こしたりすることもない。
そのため今も動物売買が続けられているというだけのこと。
法律上、ペットはモノということになっている。今のところ。
そのためショップによっては「生体保証、当店の指定フードを定期購入することで期間内に死亡した場合は交換」なんて謳っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年10月30日
読了日 : 2016年10月30日
本棚登録日 : 2016年10月30日

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