江戸時代末期を舞台にしたノワール。時代劇にコルトというワンアイデアが面白く、その取り合わせの妙も手伝ってぐいぐいと引き込まれる。拳銃というオーバーパワーな武器を取り入れたわりにはパワーバランスが絶妙で、無敵ではあるが弾丸の装填に時間が掛かる、残弾数が心許ないという感じで上手い具合に枷をはめているのが印象深かった。また船上や夜の森、襖のある室内など、戦いのシチュエーションもよく練られており、刀と銃の距離感や間合いの緊迫感は凄まじいものがあった。文章もハードボイルドらしい切り詰めて書かれた乾いた文体で、無駄な説明を省きつつも読みやすい仕上がりになっているため人を選ばない。ただ構成面は良し悪しな部分があり、元脚本家らしい山あり谷ありの筋書きで、キャラもよく立ってはいるものの、反面、展開があまりに映像を意識しすぎていてドラマチック過ぎるきらいがあり、綺麗に整頓されすぎてる印象も受ける。序盤から執拗に張った伏線である積荷、銃弾の補充ネタは、勘のいい読者なら銃もろとも敵の手に渡るのは簡単に想像がつくだろう。確かにそれは面白い展開であり、こちらが想像した面白さは全て提供してくれるのだが、意表をつかれることはなく、コルト以外の驚きや目新しさがなかったのは痛い。最後は女が裏切るかと思ったが、それだとホラーになってしまうため、ハードボイルドらしいすっぱりとした幕切れにしたのは好感が持てる。ただ王道的エンタメとしては十分であり、あくまで「欲を言えば」の部分でしか無いことを付け加えておく。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年5月28日
- 読了日 : 2015年12月10日
- 本棚登録日 : 2019年5月28日
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