本を守ろうとする猫の話

著者 :
  • 小学館 (2017年1月31日発売)
3.42
  • (137)
  • (277)
  • (400)
  • (113)
  • (20)
本棚登録 : 3552
感想 : 386
4

あれ?私って、何で本を読んでいるんだっけ?
いつのまにか本を惰性で読むようになってしまった、本を読む理由がわからなくなった…
そんな人にこそおすすめなのがこの「本を守ろうとする猫の話」!
さくさくと読みやすいけれど、ゆったりとなぞっていたい、心につねに灯していたい名言が沢山あります。
主人公の林太郎と共に、本を読む理由を、本が何を教えてくれるかを、改めて迷宮の中で考えてみませんか?


幼い頃に両親が離婚し、さらに母を亡くし、夏木書店を営みながら育ててくれた祖父も亡くしてしまった林太郎。
林太郎は本が好きで、引きこもりがちで臆病な高校生の男の子。祖父が亡くなってからいよいよ引きこもり、ずっと学校にも通っていない。
そんな林太郎の前に現れたのが、しゃべるトラネコ。名前はまだない(というか最後までない)。
トラネコは林太郎に、本を救ってほしいと頼む。
慌てる林太郎。
了承したわけじゃないのにグイグイ引っ張っていくトラネコ。
いつのまにか林太郎とトラネコは異次元におり、トラネコはこれから迷宮にゆくのだ。そこで本を救ってくれ。救えなかったら帰れないと言う。
超危険な行為である。
やはり慌てる林太郎に、なぜか落ち着いて、お前なら大丈夫だと信じている様子のトラネコ。
ツッコミ役が必要なのでは?という展開にもかかわらず、トラネコの醸し出す威厳がその必要はないと文字からオーラを放っている。
さてはて、トラネコと林太郎は迷宮から無事帰ってこれるのでしょうか?

どのキャラもほど良く個性的で面白い。
タイトルは「本を守ろうとする猫の話」だが、実際に本を守る役目を担うのは、他ならぬ林太郎だ。
トラネコは、まるでミヒャエル・エンデの「モモ」に出てくるカメのしゃべるバージョンと言ったところか。先導役のような立場で、謎が多い。
まあ全て明かされて終わりっていうのも、想像の余地がなくてつまらない。スパイス程度の謎は残しておいた方がロマンチックでいいのだ。
本作はファンタジーの側面もあり、少年の成長譚の側面もあり、するりと読め、読後感もいい。
けれど、林太郎の成長を通して、林太郎が本というものに向き合うところを描くことで、今の社会での本の価値や読書の在り方を取り巻く問題に対するアンチテーゼな側面も含まれていたと思う。
アンチテーゼというと過激な印象を与えてしまうが、その問題提起の仕方はとても爽やかかつ鮮やかだ。

林太郎は本当に、本を、読書を愛している。
そしてこの物語を描き上げた著者も、とても本を愛しているのだろうと、強く感じられた。
最初に、この本は本を読む理由がわからなくなった人におすすめと言ったが、本を愛する人にも、強く薦めたい。
やっぱり読書って、本って、最高だ!愛してる!
この気持ちを忘れずに生きていきたい。
いい意味で本に溺れたい。もちろん、心の錨は下ろしながら、ね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学/小説
感想投稿日 : 2023年2月17日
読了日 : 2023年2月17日
本棚登録日 : 2023年2月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする