漂流 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1980年11月27日発売)
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江戸時代中期に伊豆諸島最南端、絶海の孤島である鳥島に流れ着いた漂流船の物語。

寝泊りする洞窟を見つけ、アホウドリの肉と雨水を得る方法を体得してからは、仕事もしなくてよい、誰にも拘束されないため、堕落してしまい、毎日寝て暮らすようになる。栄養が偏り体に異変が現れる。そして希望の無い境遇を嘆き、卑屈になり、所有物(家屋や妻)への執着を見せるようになる。
そうやって仲間が次々と体調を崩し、絶望しながら生涯を終えていくなかで、主人公(長平)だけは自分の芯を強く保ちながら生きながらえる。

・毎朝日の出を眺めながら念仏を唱えるルーティン
・亡くなった仲間たちの墓参り
・体力増強と健康維持、規則正しい生活(漁と運動)
・「将来故郷に帰還できたら絶対に鶏肉を食べないという誓いのうえ」アホウドリを殺生

そして、後に流れ着いた漂流者達に食料を与え、生活の術を教えるだけでなく、毎日励まし続けた。もちろん、彼らは食料を消費したり、喧嘩をしたりと長平の足手まといになるのだが、長平にとっては「居てくれるだけで有難い、心の支え」という存在になっている。

長年の孤独な無人島暮らしの中で、モノへの執着や絶望を一通り味わった長平にとっては、漂流者の苦しみやトラブルなど酸いも甘いも知り尽くしていたのだろう。

そして、後に島を脱出するための造船作業において、その漂流仲間たちは、まさに頭脳であり労働力となった。長平1人の力ではなく、全員のチームプレーで数年かけて船をこしらえ、互いを鼓舞し、日本帰還という希望に向かう様子は感動的であった。

絶望的な極限状態においても一筋の希望を失わずにいること。孤独の中で、今現在に集中し、日々の生活を丁寧にすごしながら心身の健康を保ち続けること。人間として尊く生きるために、基本的ではあるが持続することはとても難しいことである。長平の成長とともに、人間の弱さと強さを徹底的に描いた一冊だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月31日
読了日 : 2023年7月29日
本棚登録日 : 2023年7月29日

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