アイデンティティが人を殺す (ちくま学芸文庫)

制作 : Amin Maalouf 
  • 筑摩書房 (2019年5月9日発売)
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感想 : 23
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ありとあらゆる教義も、時代により解釈がかわる。また宗教が歴史を変えるのと同時に、歴史も宗教を変える。たとえばアラブの連帯を目指したナセルは反イスラーム主義であり、1950年代後半において急進的イスラーム主義はアラブ国家の敵とみなされていた。
故にイスラム教徒にとって、宗教的急進主義は決して必然的選択ではない。

精神的な安定への欲求が宗教にもとめられるのは良いが、宗教をアイデンティティや帰属意識の問題から分離しなければ戦争は絶えない。。

グローバル化の普遍性+と画一性−
グローバリゼーションの画一化への不安
1、文化が均一化され、乏しいものとなる(凡庸による画一化)
2、アメリカナイゼーションではないのか(ヘゲモニーによる画一化)
しかしアメリカから見れば、WASPもグローバル化に警鐘を鳴らされている存在なのである。グローバル化に目を背け、諦めるのは早計。アメリカの優位はさておき、環境・絶滅危惧種を保護するのが当たり前であるのと同じく、世界の文化も保護されるのも当たり前ではないのか。
時折、日本の言語を英語にすれば良いという話を聞くが、英語は私たちのアイデンティティを満たしてはくれない。人と話すという意味で英語は他の言語に対し優位を誇っているが、帰属意識という点で英語と他の言語は等しい。
ナチスの例を考えれば、普通選挙(多数決)は必ずしも民主主義や自由・平等の類義語たりえない。さらに言えば現在の投票は個人の考えでなく、社会を構成する多様な要素を示すものでしかない(ムスリムがフランスで議員にならないように)。しかし民主主義にとって重要なのはそれが成したメカニズムではない。むしろ全ての人間の尊厳なのである。

それまで偉業を成し遂げてきた概念全てが疑われる「不信」の21世紀。
皆がグローバル文明に自らのアイデンティティを見出すこと、もしくは自らのアイデンティティにグローバル文化を含むことが、戦争などのアイデンティティ対立を減らす。そうであるならば筆者同様この考えが当たり前になり、この本が不必要になる時代が来るよう、私自身尽力したいと感じた。

気に入った文

人生は船旅に似ている。運命とは帆に吹く風であり、私たちにそれを決めることはできない。しかし帆の向きを変えることはできる。そしてそれが大きな違いを生む。
船乗りを死に至らしめる風が、他の船乗りを目的の港へ運ぶ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年12月8日
読了日 : 2021年12月8日
本棚登録日 : 2021年12月7日

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