一〇五度

著者 :
  • あすなろ書房 (2017年10月27日発売)
3.68
  • (17)
  • (38)
  • (39)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 397
感想 : 49
3

★2018年度読書感想文課題図書(中学生の部)


一〇五度は何の指数か。
正解が描かれたところで、思わず表紙の絵をまじまじと見る。
きっとこれが一〇五度。
確かに、そういった意図で描かれただろうイラストに、思わず笑んだ。


中学生に読ませる、という視点で考えると、イスというマニアックなモチーフ(?)は導入としては入りにくいかもしれない。まさかイスに興味がある中学生は稀だろうし、文章の中でもそこまで興味が惹かれるモノとして描かれているとも思われない。(というか、やっぱり素人には分かりにくい。)なので、イスの細かい描写に直面した本の苦手な中学生が読み進めていくのは結構苦しいのでは?と思ってしまった。
(個人的にはそういったマニアックな内容を持ってくるところは好きなのだが、いまいち文面でイスの魅力が伝わっていないような気がする。まぁ無理もないか。)

が、内容を見ていくと、登場人物の設定や人間関係が随分分かりやすく、入りやすいといえば入りやすいかも。
ストーリーは、イスのコンペに挑戦する中学生二人の挑戦の物語だし、人間関係においては、強力すぎる父親の存在に悩む息子の葛藤だし、主題も、好きなことを仕事にしていくことの厳しさ、だし。

イスに興味を持てれば面白いかなぁ…?
私は多少なりと、イスのコンペに挑む二人の悪戦苦闘やら、イス職人という在り方やらを記述の中から楽しむことが出来たけれど、これ、全然イスに興味も何もない中学生が読んで楽しめるのかな?
設定も、登場人物も、面白いとは思うけれど、いまいちその面白さが生かし切れていないような気もする。

一番違和感があったのが、父親。
今時こんな昭和な父親いるだろうか?
自分がそうではないから思うのかもしれないが、時代錯誤感が拭えないというか…。
いい大学出ていい企業に就職できても、大企業が倒産も普通にありえるし、それ以上に過労死とかが冗談にもならない時代だ。官僚だって、政治家の尻ぬぐいで左遷とか自殺とか普通にありそう。
今時、いい大学にいい企業が一番、とか言うか?
それがまず個人的には違和感でしかなかったが、まぁ自分と考えが違うだけでそういう人もいるのかな。
個人的には、イスがそれだけ好きなら、好きなことやらせてあげたらいいじゃん、と思う。
普通の企業に入ったって、全然安泰な世の中じゃないと思う。好きに生きればいい。でもその責任は自分で取る。そういうふうに育てればいいのに。
同級生に「あいつは気が利く」だとか言われている父親のあまりの頭の固さに、読みながらイライラしまくりでした。
あとは、真と梨々と力あたりに、いまいち生きてる人間臭さが感じられないというか、キャラっぽいなというのが少し気になった。表紙絵の影響もあるのかもしれないが、漫画のキャラみたいだなぁという感じ。

作者はイタリアでプロダクトデザイナーをされている方で、そういうことを考えると、作中のイスやらプロダクトデザインに関する記述は、きっと好きなことに対する情熱をもって書いたんだろうと思えて、そういうのはすごくいいなと思う。
主題は、好きなことで生きていくことだとか、家族との葛藤だとかそういったことだろうと思うけれど、結局、作者がイスやプロダクトデザインについて語っている文章が、一番生き生きしていてよいのかもしれない。

個人的には、面白く読めた。
中学生の感想も聞いてみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 中学生
感想投稿日 : 2018年5月21日
読了日 : 2018年5月21日
本棚登録日 : 2018年5月21日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする