画家の父と、年若く姉のような存在の母に育てられたペネラピ。
父の残した絵「シェルシーカーズ」を軸に、これまでの人生に思いを巡らせるペネラピの人生のフィナーレを綴った長編小説である。上下巻に分かれずっしりとしたボリュームのある作品だが、心の動きのピッチに合わせ緩急のある回想シーンが多く、あっという間に読了した。
彼女が三人の子どもたちから心の距離を置くのと比例するように、未来を見据えて進む若い友人アントーニアとデーナスに愛情を寄せる様子が切ない。若い友人二人に寄せる情の深さに触れるたびに、なぜ彼女の温かい心から生み出された価値観は血を分けた子どもたちに伝わらないのだろうかと悲しくなる。遺言状読み上げのシーンでは死してなお、彼女の思いが真に理解されることがないのだとむごい現実を突き付けられたようだった。
個人的にはドリスがいちばん好きな登場人物である。
まっすぐでさっぱりとした人柄、彼女がいなければペネラピは戦時下の生活を(しかも母を亡くし落ちこむ父をそばでみつめながら)生き抜いていくことは難しかったのではないだろうか。喜びも悲しみも分け合い、ペネラピが抱える後悔も、新たに抱いた愛情も、道徳にとらわれずにまっすぐ受け止め、朗らかに励まして支える。
終盤、ドリスとの再会のシーンでは彼女の変わらない暖かでまっすぐな気持ちが、40年という月日の隔たりを一瞬にして埋めた描写に感動がこみ上げてきた。
そして特筆すべきは、この作品全体を通して綴られる植物の描写の美しさである。コーンワルの庭で幼いナンシーが遊ぶそばで揺れていた花、晩年を過ごしたポドモアズ・サッチの温室。どのような環境でもいきいきと花開く植物の描写が、自分らしい人生を歩むペネラピの信念の強さを引き立てており、とても印象深い。
- 感想投稿日 : 2012年6月18日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2012年6月11日
みんなの感想をみる