「思想が生き残るのは、ほとんど例外なくそれが、その時代における多くの人間の生に対する欲望の根をよく表現し得ているときだけだ」
ここでいう「よく表現している」ということを、さらに「よく表現」することができるのが、著者のすぐれたところだと思う。これはすなわち、思想を「よく理解」しているということでもある。表現力と理解力の二つはほぼ同義だと考えてよい。
難解なことを、よく理解して、よく表現するには、自分なりに何らかの道を通じさせないといけないということを筆者が文庫版のあとがきで書いている。筆者の場合、自分が思い悩んでいる問題と哲学や思想が扱ってきた問題がそれほど違わないという道ができて、筆者の哲学・思想に対する表現力が増したのだという。
とすると、同じことが自分にも起きて不思議はない。実際、筆者が「在日」として哲学・思想に接近したのと、自分が帰国子女として哲学・思想に接近したのは、同じ理由によるのだと感じる。
序 思想について
第1章 〈思想の現在〉をどうとらえるか
1 戦後思想の推移
2 マルクス主義の崩壊と現代社会
3 高度消費社会とポスト・モダン状況
第2章 現代思想の冒険
1 ふたつの源流 - ソシュール言語学から構造主義、記号論へ
2 構造主義 - レヴィ=ストロースの「親族構造」、「羅漢の想像界と象徴界」
3 ロラン・バルトの「神話作用」
4 現代思想のもうひとつの源流 ニーチェと反形而上学
5 ポスト構造主義の思想 〈脱=構築〉へ
6 ”認識批判”のもたらした難問 - 〈世界像〉それ自身への懐疑
7 ふたつの現代社会認識 ー ボードリヤール『象徴交換と死』とドゥルーズ『アンチ・オイディプス』
8 ポスト・モダンと〈現在〉の世界イメージ
9 ”現代思想”の最後の問題点
第3章 近代思想のとらえ返し
1 近代思想の起点 - デカルトの〈神〉とカントの〈物自体〉
2 近代社会の危機と自己克服 - ヘーゲルからマルクスへ
3 近代思想の転換点
第4章 反=ヘーゲルの哲学
1 キルケゴールと実存
2 ニーチェ - 反形而上学とニヒリズムの克服
第5章 現象学と〈真理〉の概念
1 〈主観/客観〉という難問
2 現実認識と「確信の構造」
3 〈真理〉概念の変更
第6章 存在と意味への問い
1 実存の意味
2 ハイデガーの存在論 - 実存論
3 世人から〈死〉の自覚へ
終章 エロスとしての〈世界〉
1 バタイユの死の乗り超え
2 〈社会〉と〈人間〉の考え直し
3 超越としての〈美〉と〈エロス〉
4 〈社会〉の意味
5 「超越」と日常の背理
あとがき
- 感想投稿日 : 2021年8月21日
- 読了日 : 2021年5月4日
- 本棚登録日 : 2019年12月30日
みんなの感想をみる