秘密 (文春文庫 ひ 13-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2001年5月10日発売)
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 1998年刊行で、直木賞・吉川英治文学新人賞両候補、日本推理作家協会賞(長編部門)受賞など、それらの冠名に恥じぬ、東野圭吾さん初期の感動的な作品でした。

 主人公・杉田平介の妻と娘を乗せた夜行バスが事故を起こし、多くの死傷者を生んでしまいます。平介の妻は搬送先の病院で死亡、娘は仮死状態でした。そんな中、奇跡的に目を覚ました娘の中に宿っていたのは、妻の魂だったのです。

 表題の「秘密」とは何なのか? 娘の体に妻の心が宿った"憑依"現象のことに違いないと思いつつ、バス事故の真相へつながる伏線も関係し、展開が読めません。

 何といっても、妻・直子の夫として、娘・藻奈美の父として苦悩する平介の心情が、実に丁寧に描かれて胸に迫ります。
 喪失感、孤独感、焦燥感を恐れるあまり、過剰な愛情が歪み、執着が束縛へ変容していきます。
 弱さを曝け出し、その身勝手な言動は受け入れられない部分もありますが、むしろ、普通の一人の男の本当の姿を炙り出している気がしました。
 
 ネタバレはされませんが、最終的に「自分が愛する者にとって幸せな道を選ぶ」という結論に辿り着いたのですね。
 不幸な事故後の父と娘の物語と思いきや、最初から最後まで、"見事なまでの夫婦の物語"でした。
 最終末、本当の「秘密」も明らかになり、苦悩から解放される救いは、大きな感動をもたらしてくれました。胸熱で心震える読書体験を貴方にもぜひ!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年1月20日
読了日 : 2024年1月20日
本棚登録日 : 2024年1月20日

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