まいまいつぶろ

著者 :
  • 幻冬舎 (2023年5月24日発売)
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 胸が熱くなり、涙の川を必死に漕いで渡り切りました。徳川家の中で、ほぼ無名の第九代将軍・家重を題材にした感動物語です。
 強固な絆で結ばれた主従の家重と忠光が実在したという歴史的事実を、これだけ面白く感動的に提供してくれた村木嵐さんに感謝です。

 八代将軍・吉宗の嫡男・長福丸(後の家重)は、生まれながら片手片足や発話に問題があり、他と意思疎通ができません。また度々尿を漏らし、歩いた跡が残ることから「まいまいつぶろ(かたつむり)」と蔑まれていたのでした。
 そこに、長福丸の言葉が判る少年・大岡兵庫(後の忠光)が現れます。長福丸にとって唯一無二の存在となり、物語は大きく動き出していく展開です。

 周辺には、忠光の忠義を疑い、家重の外見に失望し器を疑う等、世継ぎを覆そうと企ても持ち上がりますが、家重と忠光の確固たる絆によって、敵対する者の邪心が覆り、周辺の様相が変わっていく描写が小気味良いです。

 蔑まれた家重の聡明さ、洞察力、優しさ。そして家重の苦悩に鏡のように寄り添い支えた忠光‥。身分の違いを超え、心から通じ合う2人の絆を丁寧に描き切っており、胸に迫ります。

 個人的には、謀略渦巻く政(まつりごと)中心の後半よりも、家重の幼少から青年期の口がきけない、思いが伝わらない苦悩を経て、真の理解者となる兵庫、正室・比宮との出会いを果たした僥倖を描いた前半に、多くの感動を覚えました。
 歴史好きには家重の再評価、初心者には新知識を与えてくれますし、また新たな読者層獲得という点でも、大きな価値ある作品だと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月30日
読了日 : 2024年3月30日
本棚登録日 : 2024年3月30日

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