飛鳥井千砂さん、初読です。2007年の発表でやや古いのですが、著者20代の作品でした。
タイトル通り、高校教師のお話です。ただ、よくありがちな困難を乗り越えての成長譚ではありません。ちょっと変わってるんです。
何がって、主人公の〝人そのもの〟です。友人から〝キングオブ面倒くさがり〟と呼ばれ、上辺の誠意はそこそこだが熱意はなしという、教師としてどうなのよ!と、突っ込みどころ満載なんです。
ところが、物語が主人公・桐原の視点で、かつ一人称で心の内なる言葉が独白のように語られて進むうちに、なぜかテキトー、いい加減、ドライにもかかわらず、周囲との関わりの中で、桐原に少しずつ心理変化を起こさせるのです。これが、読み手の印象変化につながります。
多分、人は多面的なのに、主人公の表も裏も炙り出し、若者の正直なモノの見方・考え方を鮮やか・リアル・精緻に描き切る著者の筆致力の成せる技なんだと思います。
周辺の人物の書き分けも見事です。友人、女友達、学校の同僚や生徒、アパートの隣人など、特徴付けがよくなされ、主人公との絡みも興味深く読み進められました。
この主人公を擁護するわけではありませんが、教師も人なんですよね。「聖職」などと死語のような言われ方をした時代もあったでしょうが、どんな職業にもいろんな人がいる(困った先生は最近の方が多いのでは?)のは当たり前で、著者は、たまたま一人の若い教師の日常を切り取り、瑞々しく描いたのでしょう。
読後感がとても爽やかで、素敵な作品でした。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年1月10日
- 読了日 : 2023年1月10日
- 本棚登録日 : 2023年1月10日
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