著者の川内有緒さんが、全盲の白鳥建二さんに同行し、2年間にわたる美術館等を巡る旅で、見えてきたことは何だったのでしょう?
一つは、アートを鑑賞することの楽しさ・奥深さが増したこと。もう一つは、障害、差別、偏見についての見識が広がり、深まったことではないかと思います。
少々重いテーマのような気がしますが、印象はいい意味で裏切られます。まずはポップなカバーデザイン、読む前から楽しそうです。また要所にアートの写真(カバー裏にまで)、更には重要なポイントとして、個性的で愉快な友人たちも同行するからこそ生まれる豊かな視点の会話、最終的な著者の伸びやかな文章表現…。これらが上手く融合し、読み手が追体験している感覚になります。
(白鳥さんがいるので)「一枚の絵を10〜15分見ていると、自分の目の解像度が上がること、また、言葉にすることで、思考の扉が開く感覚になる」。
一方白鳥さんは、「教えてもらうのではなく、話すというプロセスの中で意味を探ったり、発見していくのが面白い」とのこと。なるほど〜。
著者は、白鳥さんと同行を繰り返すほど、視覚障害者に対する先入観や偏見(大変だね、かわいそう)と向き合うことになります。
対話という旅路を共有することで、「見える人と見えない人の差異を縮めることは意味がない」こと。そして、「窮屈な許容範囲の外側に勇気を持って一歩踏み出し、自己規制を解除し続けることで、『普通』『まとも』『当たり前』の領域が広がる」と気付かされるのでした。
アートの解釈の本質、人として(健常者・障害者の隔たりなく)他者と共に生きることの意味を〝軽やかに〟問う、良質なノンフィクションでした。
- 感想投稿日 : 2022年12月8日
- 読了日 : 2022年12月8日
- 本棚登録日 : 2022年12月8日
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