人間小唄 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2014年1月15日発売)
3.16
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本棚登録 : 908
感想 : 55

当たり前って何だよ。
どうして当然だって思えるんだよ。

喜んだり、悲しんだり、怒ったり、寂しくなったり、根っこから生まれてくるはずの感情さえも、世の中に溢れる在り来たりな予定調和にコントロールされている雰囲気に、いったい何なんだと、頭を掻き毟り、湧き上がる吐き気を無理矢理飲み込んで、絶望的な気分に落ち込んでいく。

約束通りの答えが欲しくて欲しくて仕方がない。
良いことも悪いことも、思い描けるイメージの範囲内で生まれてきてくれる世界を求めて、そんな期待通りの世界に囲まれて、安心しきって生きている人間という大勢。

定石どおりに進む。
そんな世界が何だってんだ。

同じことを繰り返していくだけで、停滞し、鈍重になり、もう飽和して、腐り始めてる。でも、気づかない振りをして、ごもっともらしい意味だけが終わることなく出力されて、次から次に降り積もるだけ。

まるで人間の存在そのものと重なっていく風景にすべて一度壊れてもいいんじゃないかと、残酷に思う。

見るに堪えないものが溢れる世界に、ときたま表れる何処にも同じものはない物語、意思、それを持つ人間。誤魔化さないで、寄り掛からないで、自分の中から立ち上がる世界を作れる人間が、僅かだけどこの世界にはちゃんと存在している。

それを確かに感じ取れるだけで、少なくとも自分の世界は破滅的な状況から救われている。

この物語、これを描く意思はそれだ。


分かりやすくて、簡単に人の心を動かして、ひとりよがりな世界を当然の風して撒き散らしてる。もうそんな空気には辟易だ。

破壊とか、テロルなんて解説されていても、それでもそこに生まれている言い訳のない自らで生み出された言葉は、代わりがない、美しい形だと思える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年4月18日
読了日 : 2016年8月28日
本棚登録日 : 2021年4月18日

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