実況・近代建築史講義

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  • インスクリプト (2020年12月2日発売)
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近代という概念は、歴史や芸術、思想、その他様々なカテゴリごとにそのはじまりが異なっている。

ヨーロッパは、古代からキリスト教に染められることで自由な文化的発展が抑えつけられてきた。その転換がルネサンス(再生)として起こる。ギリシャ・ローマという時代を再評価し、例えば建築においても、規範としての古典というものがクローズアップされることになる。抑えられたきた科学や技術というものによって、古典から繋がる文化を再構築する。さらに、歴史に積み重ねられてきた実態を様式として整理し把握するようになることで、方法として建築を表現し、さらにはそれらの様式を足掛かりにすることで、改変し、逸脱し、ときにはまた否定したりすることで、さまざまな主義様式がまた生み出されるという循環が生まれた。しかし、様式という基準が建築をはじめに規定してしまうことで、それらの取捨選択、基準を更新するためのまた基準、基準からはじまる発想の転換と更新というだけの繰り返しに陥り、建築は停滞していく。廃退の雰囲気が忍び込んてくる。


そこに、新たな次元を持ち込んだのが、産業革命だ。工業的革新によって、材料、方法、さらには建築の立つフィールドまでが一新されていく。鉄という材料の可能性の横溢。材料としての特性が限界を広げ、規格化と合わさることで、それこそ空間における次元を変えていく。このタームがユニークなのは、エンジニアリングの発展として、表現の方法が拡張し、建築と土木の境のない、大規模な建造物の実現によって、世界が変わり拡がっていったことだ。イギリスにかけられた鉄橋、エッフェル塔、展覧会場のクリスタル・パレス、フレシネーたちによるコンクリートという材料の革新と産業化。それまでの様式たちからまたたく間に、飛び越えるようにして可能性が拡張されてしまう。この過程によって齎された“発見”が、新しい概念としての「モダニズム」という潮流を生み出していくことになる。


第一次世界大戦によって齎された、ヨーロッパの白紙状態。産業革命からの潮流に加えて、歴史性と比較性が断ち切られてしまった状態が到来して、モダニズムが立ち上がってくる。規範に囚われるのではなく、自立するしかない状況から、真っ更なところに生まれる新たな共通基準を建築のなかに構築しようとした。それは、ユニバーサルな諸元を求める行為のようでありながら、一方で、どこまでも極限的なことを許容してしまうような、無限性を含んでいた。

ミース・ファン・デル・ローエのように、彼方まで行ってしまうことができる。終わりのない徹底的な追求が建築になる。マレーヴィチがシュプレマティズムを提唱する。何かを表現することが芸術になるのではなく、例えば、絵が絵としてだけに自立してしまう。造形や意図によって、建築も立ち上がらない。徹底的に突き放して、そしてまるで勝手に自立するように存在してしまう。

ル・コルビュジエのように、モダニズム建築の要旨として「近代建築の5原則」を立てる。新たな空間概念を示す。シンプルな言葉で概念を形態にするための抽象化の方法を作り上げる。国際的な、普遍的な建築という意味を広告的に、シンボリック的に実現しながら、一方で、それを自ら壊してしまうようなロンシャン礼拝堂を作り出す。

どこまでも行けるのだ。モダニズムにある制限のなさという世界観。極限を目指せてしまう、圧倒的な才能の存在によって、どこまでも拡がることが可能な世界。世界標準的というモダニズムの意味と正反対の価値がそこには含まれている。

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感想投稿日 : 2021年6月21日
読了日 : 2020年8月12日
本棚登録日 : 2021年6月21日

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