無伴奏 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2005年3月2日発売)
3.48
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本棚登録 : 520
感想 : 47
3

「きみが決めることだよ、響子」

この一言がすごく印象に残った。
恋人と友人の関係を知ってしまって混乱している中で、この発言をした渉は非常に残酷である。だけど、渉の心情も読み取ることができ、響子と普通の恋愛を送りたい思い、そこへ引っ張ってほしいという願いもあったと気付ける。

冒頭で「事件」について触れる部分があり、内容を想像していたが、終盤になって予想していたものよりももっと残酷で悲しい事件に最初は受け止めきれなかった。渉の下した決断も、展開が早すぎて主人公と自分が置いてけぼりだった。

幾度となく渉と祐之介は普通の恋愛をしていこうと決意をしたが、相手の恋人に嫉妬したり、わざと嫉妬させるようなことをしたり、結局2人の結びつきを強くしただけだった。AとBはっきりさせないといけないと主人公の響子は迫っていたが、その気持ちがわかる反面、恋人が2人いてもいいのではと考える自分もいた。その場合、甘い時間が少し長くなるだけで精神は摩耗し続けることだろうけど。

恋を知っていく響子の変化が可愛かった。最初は良い家庭のお嬢様として見られたくなくて、とりあえず反発するということ、プライドを保ち続けることに必死だったが、渉と出会いどんどん変化していく。無理に背伸びしないで自分を曝け出したり、渉の姉である美人の勢津子に嫉妬したり、渉から事実を告げられ混乱してもそれでも渉のことを好きでしょうがなかったり。等身大になっていく響子は可愛く、また懐かしさを感じさせた。

事実について響子はエマにも、警察にも、そして勢津子さんにも言わなかった。いつでもその前にトリガーがあって、発言をきいて伝えるのをやめる優しさを持っていた。事実を事実だからと伝える必要がないことを教えてくれた。そんな響子も祐之介の悪口を渉に伝え、渉の優しい反応でエスカレートしていく部分は見ていて辛かったがそれほど傷ついていたのだろう。過去の出来事にして欲しかったのだ。



最後はみんなに家族ができて、ようやく当たり前の幸せを手に入れたことになっていたけど、主人公のように囚われているのかな。忘れて欲しいとも思えないが、どうか今の家族との日々を大切にして欲しいと願う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月6日
読了日 : 2022年8月6日
本棚登録日 : 2022年8月6日

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