ユルスナール・セレクション 1

  • 白水社 (2001年5月1日発売)
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感想 : 24

ユルスナールは文献を渉猟し研究を重ね、その上で文学的想像力を働かせた秀逸な小説だが、本書以前は有能とも言えない上に同性愛者であったことからフランスで人気のなかったのに、この本が出て一気にハドリアヌスがローマ皇帝中で一番人気になったらしい。それほどに手紙の書き手(ハドリアヌスが書く手紙の形式をとった小説になっている)の魅力が文章から溢れている。決して飾った文章ではなく、キケロのように練りに練った修辞と言うのでもなく、カエサルのように簡素簡潔と言うのでもなく、静かで押し付けがましくなく、控えめでかつ芳雅な雰囲気がある。
そう思って、とある仏文学者・フランス語翻訳者に素敵な日本語だと述べたら、いやあれは原文とはだいぶ違い非常に硬い翻訳ですよ、と言われた。そのあと原文を購入したが、そこまで判断できる素養がなく、むしろ硬質な文体がローマらしさを逆に醸しているとさえ思えてきた。その後、多田さんの詩集や随筆もいくつか読んでみたが、翻訳もまた独立した文体の創出として創作と言えるんじゃないかという意見に傾いている。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2017年2月13日
本棚登録日 : 2017年2月13日

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