正義の教室 善く生きるための哲学入門

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  • ダイヤモンド社 (2019年6月20日発売)
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様々な議論や考えがあり、結論を出すことが難しい、「正義とは何か」という問い。人間はいかに生きるべきなのか、「善く生きる」といはどういうことなのか。
2500年間の哲学の歴史を紐解きながら、小説仕立てで進んでいきます。

世の中の「悪」は”不平等”、”不自由”、”反宗教(宗教または伝統的な価値観を破壊する行為)”であるとし、それらの悪を侵さず改善しようとする行為を「正義」として整理するところから、議論がスタートします。
平等の正義を実現することを目指す功利主義。
自由の正義を実現することを目指す自由主義。
宗教の自由を実現することを目指す直観主義。
それぞれの思想の創始者や考え方の原則、また主張に対する反論などが、登場人物の性格も関連させながら授業形式で開設されており、他の一般的な哲学・思想の入門書よりも(哲学者の主張の細かな部分が正確かどうかはさておき)簡潔に要点がまとめられていてとても分かりいやすかったと思います。

主人公の「善く生きる」ためには「正義とは○○である」という公式や法則を決めるのではなく、他者に観られているかどうかに限らず、それぞれの場面で「自分にとって善いと考えることをおこなう」ことこそが、この監視社会(相互監視社会)で”自由で幸福な人生を送る”ために必要な事である、という主張には納得ができる部分もあるように感じます。

功利主義の訴える「最大多数の最大幸福」という考え方もすべてが間違っているとは思いませんし(「幸福」という主観的な要素が”最大幸福”の集計を不可能にしている=「最大幸福」など正確に把握できないという批判はありますが)、自由主義の訴える「他人の自由を脅かさない限り、個人の選択は自由だ」という考えにも同意できる部分は多々あります(一方で、社会的弱者を単純な自由競争の下で切り捨て続けることには、それこそ”倫理的”に賛成できない部分もあります)。
そして直観主義の、実存を超えた世界に「善」があり、それに従って過ごすべき、という論に対しては、完全に否定することはできないにせよ、いささか独善的な印象も受けます。
そして、構造主義・ポスト構造主義の哲学思想の主な主張についての解説も明快で、非常に勉強になりましたし、自分なりに考えることができた読書になりました。

ただ、ラストの”オチ”というか、展開がどうもスッキリしない印象です。もちろん、「既存のシステム(構造)」や、周囲にどうみられるかという価値判断ではなく、悩みながらも自分自身にとっての「善」を突き詰めて考えだした主人公の決定を、受け入れられるかどうかということを読者に突き付けているのだとは思うのですが、「そうだ、主人公の決定は正しい」と声を大にして言うことには少し抵抗を覚えます。
古くさく、自分の価値判断を独善的に押し付けてしまうことになりますが、あえて「この結末は”倫理的に”どうなのよ」と言いたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 仕事
感想投稿日 : 2020年9月10日
読了日 : 2020年9月10日
本棚登録日 : 2020年9月10日

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