ブラック・ダリアの真実 上 (ハヤカワ文庫 NF 314)

  • 早川書房 (2006年9月1日発売)
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感想 : 5
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はじめはもちろん眉唾だとおもった。しかし、読みすすめるうちに圧倒的な真実が迫ってくる。著者のスティーブ・ホデルは、ハリウッド署の殺人課にながらく勤務し、三百件以上の事件を担当、最高の解決率をほこった。また、退職後は私立探偵となり、かなりの成功をおさめている。かれがこの事件に興味をもち、やがてその調査にのめり込むのは、父の死後のこと。未亡人のジュンから渡された、一冊のふるいアルバムがきっかけだった。そこには物憂げな表情でポーズをとる、わかい女の写真が貼られている。艶やかな黒髪を結いあげ、そこにおおきな花飾りをつけた、女優のようにうつくしい娘。どこかでみた顔………スティーブは記憶の糸をたぐり寄せた。1947年1月15日の早朝、39丁目とノートン・アヴェニューが交差する角の空き地に、ころがっていたしろいマネキンみたいな遺体。被害者はエリザベズ・ショート。ボストン出身の22歳。スターを夢見る無名の女の子だった彼女はしかし、皮肉なことにそれから「ブラック・ダリア」として名を馳せるはめになる。この秘密めいた、禍々しくもロマンテックな通称に、わたしは一瞬で心をうばわれた。たぶんだれもがそうだったのだろう。天使の街ロサンゼルスで起きた猟奇殺人は、二十世紀でもっとも有名な未解決事件となる。半世紀以上経った今も、エリザベス・ショートとその謎に魅了され、事件に耽溺していく人間はあとを立たない。グレゴリー・ダンは 1977年にこれを下敷きにして「エンジェルズ・シティ」を書き、その小説は「告白」というタイトルで81年に映画化された。

十歳のときに母親を殺されたJエルロイは87年、ダリアに亡き母の幻影をみて「ブラック・ダリア」を執筆し、このノンフィクションノベルもやはりブライアン・デ・パルマにより映像化。マックス・アラン・コリンズも事件を扱ったフィクション「黒衣のダリア」を著す。ジョン・ギルモアの「切断」ジャニス・ノールトン&マイケル・ニュートンの「Daddy Was the Black Dahlia Killer」Mary Paciosの「Childhood Shadows 〜The Hidden Story of the Black Dahlia Murder〜」など、ノンフィクションの出版も多数。ケネス・アンガーも「ハリウッド・バビロン2」でこの事件を取り上げている。だが、事件に関するさまざまな書物のなかで、わたしはとりわけこの本が気に入った。はるかむかしの未解決事件に関する調査、それは父をめぐる旅でもあった。ジョージ・ホデルには秘密がある。血なまぐさく淫靡な秘密が。この作品はブラック・ダリア事件の真相をつまびらかにするノンフィクションであると同時に、ジョージ・ホデルとその一族の華麗なる闇を暴く告発の書なのだ。巨大な富を築き、数多の美女をモノにし、強大な権力を握る男。虐げられ裏切られながらもかれを愛した家族たち。その驚くべき人生、秘められた真実の物語だ。ここにえがかれる虚飾に満ちた悪魔的な世界は「ブラック・ダリア」という魅惑的な名を、より一層ひきたててくれる。正直、公開されたアルバムの写真は、どうみても別人っぽい、とおもう。だが、そんなことはどうでもいい。そもそもわたしたちは目を伏せたエリザベスの顔をしらない。

未成年飲酒で逮捕されたときのマグ・ショット、男友達とのツーショット、顎をあげかるく微笑んだプロマイド風のそれ、そして切断された遺体の写真。でもそれは彼女のほんの一面にすぎない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション/ルポルタージュ
感想投稿日 : 2011年2月11日
読了日 : 2011年2月11日
本棚登録日 : 2011年2月11日

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