蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)

  • 河出書房新社 (2008年2月19日発売)
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感想 : 16
3

20世紀英国の作家(但し、アメリカ出身)、2000年に病没した
ジョン・スラデックの奇天烈な短掌編集、全23編。
SFありミステリありホラーありと盛りだくさん。
ギャグ漫画のようなナンセンスなストーリーに呆れていると、
不意にシリアスな話が現れるので油断禁物。
心理描写に重点を置かず、アイディア勝負の力業が多いため、
好き嫌いが分かれそう。
個人的に、笑いの中にもペーソスが感じられる物語が好きなので、
面白かったがドップリ浸れたとは言い難い(笑)……すまぬ。

以下、特に印象的な作品について。

■高速道路(The Interstate)
 単身、優雅なバカンスを楽しもうと、
 長距離高速バスでリゾートを目指す会社員の男。
 指定された巨大チェーンのレストランで
 食事休憩を取ることを繰り返しながら、
 目的地に向かうはずが……何かがおかしい。
 食欲旺盛なのは結構だが、
 これでは太ってしまいそう(笑)。

■血とショウガパン(Blood and Gingerbread)
 本当は恐ろしいグリム童話=「ヘンゼルとグレーテル」異聞。
 粗暴な父にも、か弱い母にも、強欲な継母にも、
 優しい魔女にも従わない、
 一枚も二枚も上手(うわて)で残酷な双子の兄妹。

■小熊座(Ursa Minor)
 仕事の打ち上げで酒を飲んだ後、リチャード・マトロックは
 いつの間にかクリスマスプレゼントを携えていた。
 それはアンティークなテディベアで、
 首輪のプレートには「ダニエル、7」と記されていた。
 幼い息子ジミーはそれをとても気に入ったが、
 次第に奇妙な出来事が……。
 家の中で何か不都合が生じたとき、「くまたん」が
 勝手に動き回っていたずらしたことにしよう、
 と考えたくなる気持ちは、よくわかる(笑)。

■蒸気駆動の少年(The Steam-Driven Boy)
 アーニー・バーンズ大統領の専横に危機感を覚えた
 タイムパトロール隊は、
 彼の少年時代の姿を模(かたど)ったダミーを
 1937年に送り込んで本物とすり替える作戦を取った。
 当時の人々に万一分解されたとしても、
 彼らに理解可能な仕組みで出来た蒸気駆動式アンドロイドを……。
 カモフラージュを重ねた挙げ句、
 誰がどれで何がどうなっているのか、グチャグチャに。

■おとんまたち全員集合!(Calling All Gumdrops!)
 タイトルの「おとんま」は「お頓馬」。
 grownup:大人→gumdrop:(子供が好む)グミ
 というダジャレの原題を巧みに邦訳。
 最近の子供たちの言動は理解に苦しむと嘆く大人の話……
 かと思いきや、どうやらおかしいのは彼らの側で。
 就職し、結婚し、親の立場となっても、
 子供の頃のまま遊び呆けたい人たち。
 カットされたジーンズから剥き出しになった膝頭の瘡蓋を気にして、
 いつも弄っているという主人公の描写が秀逸。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  英米語文学
感想投稿日 : 2019年5月15日
読了日 : 2019年5月15日
本棚登録日 : 2018年7月28日

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