料理番 忘れ草 新・包丁人侍事件帖 (2) (角川文庫)

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  • KADOKAWA/角川書店 (2015年11月25日発売)
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人並み外れた嗅覚を持つ江戸城台所人・鮎川惣介と剣の達人の大奥添番・片桐隼人の幼馴染みコンビが様々な事件に挑む〈新包丁人侍事件帖〉シリーズ第二作。
〈包丁人侍事件帖〉シリーズから数えれば第九作になる。

「半夏水(はんげすい)」
豪雨の中、姿を消したイギリス人・末沢主水。かつて彼が在籍していた天文屋敷に向かったかと思われたが来ていないと言われる。調べると金貸しをしていた隠居老女の拐かしに巻き込まれたようで…。

豪雨が収まるように願掛けした隼人が封印したのが親バカというのがコミカル。主水の人の好さが光る。しかし一番印象的なのは老女。こんな目に遭っても口が減らないのだから世話ない。

「大奥、願掛けの松」
幹に七度か十度か願いを刻めば叶うと噂の大奥の松。しかしそこに刻まれたのは新人上役を呪う言葉で…。

このシリーズには度々厄介な性格の役人が登場し職場を不穏な空気にする話が出てくるが、今回もまた厄介。しかも勘違い型で人の話を聞き入れないのだから堪らない。
それでも前作の松平外記の悲劇を繰り返すまいと奔走する隼人と彼を助けようとする惣介が良い。
久しぶりに曲亭馬琴が登場したが、病のせいか少し傲慢さが引っ込んでいて逆に落ち着かない。

「鈴菜恋病」
麻疹が流行し、鮎川家も片桐家も襲われる(惣介と隼人は幼いころ罹患済み)。とはいえ今回の麻疹は軽いらしく命まで落とす者は少ない。そんな中、飲めば麻疹に罹らないという怪しい薬が売られて…。

今回の作品を通してついに明かされる、鈴菜の恋のお相手。惣介は頭では気付いていたものの、父親としてかこれまでの関わり方からか、なかなか認めたくないらしい。
一方で鈴菜の相手もまた鈴菜を思うゆえにお勤めに対する覚悟が揺れ動く。
最後に娘に向かって共に生きていく覚悟を問う惣介が妙に格好良い。過去に志織も凛とした母親らしさをみせたが、この夫婦は普段は落ち着かないが決めるところは決めている。

まだ麻疹に対してワクチンも治療薬もなかった時代、様々な噂や怪しい薬にすがる人々の姿はコロナに見舞われたばかりの世界を思い出す。
料理のプロである惣介でさえ、麻疹に罹った者が食べてはいけないという迷信レベルの情報に惑わされて卵を食べさせるのを躊躇するくらいだから、庶民となれば盲信するのも仕方ない。そんな中で鈴菜の医者修行の師匠・滝沢宗伯が冷静に判断したり怪しい薬が堂々売られていることに憤りを感じているところは好感持てる。しかし宗伯が癇癪を起こすシーンもあり、そこは馬琴譲りの性質も感じさせる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説 サスペンス・ハードボイルド
感想投稿日 : 2021年10月8日
読了日 : 2021年10月8日
本棚登録日 : 2021年10月8日

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