半席

著者 :
  • 新潮社 (2016年5月20日発売)
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感想 : 53
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最近出た「泳ぐ者」がこの「半席」の続編と知り久しぶりに再読。

徒目付の片岡直人が徒目付組頭・内藤雅之を通じて行う『頼まれ御用』(正規の御用ではない内密の捜査)四話プラス二話。
直人は出世のため『頼まれ御用』など断って正規の御用に邁進し勘定所に席替えを目指したいところなのだが、内藤が回してくる『頼まれ御用』を果たすうちに正規の御用にはない、事件の『なぜ』を『見抜く』ことに魅力を感じていく。

『頼まれ御用』の事件は表向きには解決している。犯行の内容も分かっていて、犯人も捕まり本人が事件を起こしたことを認めている。表題作のみは少し違うが、他の事件同様唯一分からない『なぜ』を追及していく。
いずれも長い年月我慢してきたこと、見て見ぬふりをしてきたこと、諦めてきたこと、そんな心の小さなトゲや溜まりに溜まった心の澱があるきっかけで表面化した事件だった。

他者からすればそんな些細なことでと驚くような話かも知れないが、当人からすれば「そんなこと」だからこそ表立って主張したり打ち明けることも出来ずにいたのだ。そうして長年胸の内に収めているうちに勝手に相手の心の内まで作り上げてしまう。
だがあるきっかけで己れが作り上げた相手の心の内が現実とは違うことに気付くと己れの我慢の年月まで否定されたようになって心が壊れてしまう。

武家の世界だから起きた事件ではあるがこうした構図は武家の世界でなくても現代でもある。どこにでも誰にでも起こりうる事件なのだ。

それを直人が実感するのが最終話。
直人は元々無役の小普請組の家に生まれ、十五の年から七年間逢対(就職活動)を続けてやっと小普請世話役の役目につき、その後徒目付に移ったが身分はあくまで御家人。
低い身分の世界から抜け出そうと必死にもがいている直人は人を羨む立場にあっても人から羨ましく思われる、悪く言えば妬まれる立場にいるとは思ってもみなかったようだ。
しかし身分や地位の上下など関係なく、どんな場所にも知らず知らず溜まる澱はある。

出世を目指す直人に変化を与える人間が二人いる。
一人は上司である組頭・内藤雅之でもう一人は浪人の沢田源内。
内藤は出世でも金でもない世界を教えてくれ、沢田は『なぜ』を解き明かすヒントをくれる。どちらも内面はともかく表面的には自然体なのが良い。
沢田は続編にも登場するだろうか。

話の設定や謎解きは面白かったが、直人の状況説明が毎話出て来て煩わしかったのと、事件の構図が似たり寄ったりだったのが残念。
もう少しバラエティに富んだ内容の方が飽きずに読めたかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説 ドラマ
感想投稿日 : 2021年7月19日
読了日 : 2021年7月19日
本棚登録日 : 2021年7月19日

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