アクティブメジャーズ

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年8月7日発売)
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感想 : 63
3

公安警察官・倉島シリーズ第四作。
他の作家さんが描く公安ものはダークな雰囲気になりがちだが、今野さんが描くと爽やかで真っ向勝負な公安マンたちになる。だが一方で様々な駆け引きがあるし、刑事たちとの考え方や立場の違いも対照的に描かれている。

前作でエース級の公安マンになるための『ゼロ』研修を受けた倉島。今作は研修後初めての仕事になるのだが、命じられたのは倉島と同じ外事一課に所属する葉山という警察官を調査すること。まるで監察官のような任務に戸惑う倉島だが、これは一種のテストなのかも知れないと気持ちを切り替えて新たに出来た二人の部下と共に調査を始める。
とはいえ葉山は倉島以上のキャリアを持つ公安マンだけに人事データに接触するだけでも一苦労。そんな中、葉山と有名新聞社の編集局次長が転落死した事件に繋がりが出てきて…。

タイトルの『アクティブメジャーズ』とは諜報の世界でいう『積極工作』のことだそうだ。例えばマスコミを上手く利用して自分たちに都合の良い報道を増やすのも該当する。今ならネットの発達によりもっと簡単かも知れない。それでもオールドメディアの影響力はいまだに重視されているようだが。他にも政治家や外交官たちに働きかけるロビー活動などもある。

この作品で言えば、転落死した有名新聞社の編集局次長は『アクティブメジャーズ』に利用された側に見える。だが有名新聞社の編集局次長クラスならそのような工作を受けることも珍しくない筈。逆にその工作を利用して何かを仕掛けた可能性も考えられる。

倉島ら公安警察官たちにとって情報は明るみに出すものではなく活かすもの。そのため敵対関係にあるロシアの協力者とも持ちつ持たれつのバランスで渡り合っている。時には上司だろうが同僚だろうが情報を隠蔽しなければならない時もあるだろう。
しかし刑事たちは犯罪の詳細を明るみにし犯人を逮捕するのが使命。立場が違う両者が殺人事件でぶつかり合うのだから厄介だ。

安積班シリーズのような刑事警察目線の作品を読むと公安警察官は時に事件そのものすら握り潰す陰湿なヤツに見えるが、この倉島シリーズのような公安警察官側から読むと刑事たちは目先のことしか見えない小さなヤツに見えてしまう。何とも面白い。

殺人事件を捜査しその真相と犯人を明るみにすることによって、時には新たな犠牲者が出たり別の損害を被ることもある。庶民の私には分からない世界で倉島のような警察官たちが闘っている。
とはいえ倉島は割りと情報を共有するし、厄介な交渉相手とも正攻法でぶつかるのでダークなイメージにはならない。逆にこんなに正直で大丈夫?と思うくらいだ。

一方の葉山の方はいかにもな公安マンという感じ。一匹狼で神出鬼没、倉島たちの先へ先へ行く。そんな葉山が転落死事件とどう関わったのかという点については意外な感じもあった。彼ほどのキャリアの長い公安マンでも想定外の展開はあるということだろうか。
それでも殺人事件の真相や犯人については今野さん作品らしくシンプルな構造で分かりやすかった。むしろその事件をどう倉島が捌くのかが興味深かった。

今回、片桐・伊藤という対照的な部下が出来て、白崎・西本という同僚も助っ人として参戦。思わぬ大所帯のリーダーとして今回のオペレーションを見事やりきった倉島。さらに新たな仲間も出来そうだ。
次はどんなミッションが待っているのか。

※倉島シリーズ作品一覧
第一作「曙光の街」
第二作「白夜街道」
第三作「凍土の密約」
第四作「アクティブメジャーズ」(本作)
第五作「防諜捜査」
第一作~第三作はブクログ登録前に読んだためレビューはなし。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 警察・刑事
感想投稿日 : 2021年5月14日
読了日 : 2021年5月14日
本棚登録日 : 2021年5月14日

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