高座の上の密室 (文春文庫 あ 47-4)

著者 :
  • 文藝春秋 (2015年6月10日発売)
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感想 : 17
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出版社の編集員から寄席《神楽坂倶楽部》の席亭(社長)代理として『出向』という形で働いている希美子。

前作では寄席の習慣、業界用語に付いていくのに精いっぱい…というより振り回されていただけの希美子でしたが、今回は少しずつ慣れてきて『席亭代理』、略して『席代』と呼ばれることにも戸惑わなくなってきてます。

姉妹編(私が勝手にそう受け止めている)の神田紅梅亭シリーズは落語の話ばかりですが、こちらは落語だけではない、『色物』と呼ばれる手妻(手品)や太神楽(傘の上で様々なものを回す芸)という、落語以外の芸にもスポットを当てています。

そして前作のあとがきで作家さんが予告された通り、今回は事件も起きてます。
一つはタイトルの通り、高座の上で起きた事件。
紐で封をされた葛籠の中から脱出するという芸の最中、葛籠と客の眼という二重の密室から消えた少女。
母親でもある手妻師は、別れた元夫が少女を誘拐したのだと騒ぎ出します。
蓋を開ければ、そう複雑でもない話なのですが、芸の世界に生きる人たちの苦労が分かる話です。

もう一つは独り立ちの試験として芸を見せている最中、やるはずのことをやらず、予定にならないことをやりだした太神楽師。
こちらは所謂日常系という感じ。
ただテレビ収録ではない、生の『寄席』という舞台ならではのことで、とても興味深かったです。

神田紅梅亭シリーズでも出てきますが、突然出てくれるはずの芸人さんが来れなくなってしまったり、寄席が始まっている最中に慌ててほかの芸人を探したり。その間前の芸人さんが話を長引かせたり。
こういうトラブルが日常茶飯事の『寄席』という世界が印象深く感じた話でした。

愛川さんの作品をいくつか読んでいる身としては、ところどころに他のシリーズのキャラの名前が出てくるのも楽しかったです。
今回は『ヘルたん』からあの人の名前が登場。元気で頑張っているようで良かったです。
あとがきによると、これからもそういう遊びをやってくれるようで、楽しみです。


父親の体調が良くなるまでという約束で勤めている『席亭代理』ですが、希美子の気持ちは少しずつ変化している様子。
元彼の出現もあって、これからの展開がますます気になります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー・名探偵
感想投稿日 : 2015年10月8日
読了日 : 2015年10月8日
本棚登録日 : 2015年10月8日

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