つまらない住宅地のすべての家

著者 :
  • 双葉社 (2021年3月17日発売)
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感想 : 267
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『つまらない住宅地』とあるが、『つまらない』どころか個性だらけの家庭ばかり。

妻が出ていったことを隠している丸川家、母親も祖母も幼い姉妹を育児放棄している矢島家、暴れたり放浪癖があったりする息子を閉じ込める計画を夫婦で進めている三橋家に、間取りも家族関係もちぐはぐな長谷川家、極め付きは矢島家の少女を拐かそうと企む独り暮らしの大柳。他にもごみ屋敷あり、目を掛けて世話した学生に振り回される大学講師夫妻など十軒の事情が入れ替わり描かれる。

どんな家庭にも中に入れば何らかの問題を抱えているものとは言え、問題ありすぎだろうと戸惑いながら読み進めていくと、更に女性の脱獄犯がこの住宅地方面に向かっているニュースの話が出てきてカオスな予感。

自治会長の丸川家父は、この逃亡犯がこちらに来ないか見張りをすることを提案する。さらに住宅地の面々に見張りの当番を割り振り、住宅地の入り口である老夫婦の笠原家の二階を見張りの場所として借りることを承諾を得るなど、やけに張り切っている。

各家庭の事情は不穏なのに、津村さんらしく呑気でとぼけた雰囲気だ。
物語の方は、逃亡犯の見張りというご近所同士の共同作業がご近所同士の距離も変えていく。
互いに何となくあの家は問題を抱えていそうだと感じつつも突っ込まないでいたところを、例え距離感が変わっても突っ込むことはないのだが、気の持ちようが変わっていく。

逃亡犯とこの住宅地の人々との関係も絡み合っていて面白い。逃亡犯が元々犯罪を犯した原因にも、逃亡の理由にしろ大いに関わっていた。
逃亡犯の犯罪が軽くはないが残酷なものではないものだったこともあり、関係する人たちが逃亡犯を否定的に見ないところが長閑な雰囲気なまま展開していったように思う。

逃亡犯という不穏な出来事が住宅地の人びとの不穏な問題をそれとなく解決するという面白さ。
家にひっそりと仕舞われていた問題をこの機に明るみに引き摺り出すのではなく、何となくそうではないかと察し、或いは自分で何となく立ち止まり、気付いたら上手いこと収まっていたという感じが良い。逃亡犯の結末も上手く着地した。

中でも丸川家の亮太くんとその友人・恵一の活躍は良かったし、矢島家のみづきちゃんの頑張りとそれを察し対等な目で力を貸す山崎家の独り暮らしの女性も良かった。
そんな中で長谷川家の祖母が一人異質な感じを貫いていて印象的だった。

ただ皆さんのレビューにもあるように登場人物が多過ぎて、特に序盤は混乱した。半分くらいの人数にしてそれぞれの物語を掘り下げた方が読みやすかったように思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドラマ その他
感想投稿日 : 2021年5月12日
読了日 : 2021年5月12日
本棚登録日 : 2021年5月12日

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