乱歩先生の作品の中でも『猟奇と妖美』をテーマにした作品12編。ミステリー作品は入っていないのでご注意を。
未読作品は4編。
「火星の運河」は『私の夢を散文詩みたいに書いたもの』というだけあってストーリー性は無い。乱歩先生お得意の不気味な背景の中で、主人公は男なのに夢の中では女になって自分の体を掻きむしり血をダラダラと垂れ流す。
何とも意味深な夢に見えるがそこに深層意識などを解釈しようとするのもナンセンスか。
「白昼夢」は白昼の往来で堂々自分の猟奇的犯罪を語る男の話。その男が指差す先には彼の犯罪の紛れもない証が。果たして本当に彼は犯罪を犯したのかそれともからかわれたのか。
「目羅博士の不思議な犯罪」は目羅博士による連続殺人事件の謎解きとそれを止める探偵の話。乱歩先生の作品にはこんなことで人を操れるのか?と思えるものが時折出てくるが、これもその類。そして探偵のモジャモジャ頭はもしかして?
「蟲」は収録作品中もっとも印象深い作品。
これもまた乱歩先生の作品にはよく出てくる、人付き合いが苦手な引きこもり青年が主人公。しかも裕福でプライドが非常に高い。
プライドが高いゆえに途轍もなく卑怯で姑息なことをしてしまうという、相反する行動を取ってしまうのが面白い。人付き合いが苦手で蔵の中に閉じこもる生活をしているのに、自分の欲望を叶えるために自動車学校に通ってみたり敢えて人前に出てみたりと姿勢ブレブレなのに彼の中では一貫しているというところも。
彼の歪んだ欲望はついに果たされるのだが、この作品の真骨頂は実はここから。さらなる欲を出したがために思いもよらぬ事態に陥っていくのだ。タイトルの意味がここで分かる。
彼の欲望と破滅といい、エログロ要素といい、乱歩先生らしさ全開。主人公はあくまで真剣で必死なのに、読んでいるこちらは滑稽な感じすら受けてしまう。ごめんなさい。
様々な愛のかたちと破滅という視点で言えば「芋虫」「お勢登場」もそうだ。乱歩先生の作品は女性のほうが立場が上だったり性格的に強かったりというキャラクターも多い。
「防空壕」は艶っぽさも入れたオチ話のようで収録作品の中では変わり種。一方で焼夷弾が降り注ぐ夜空や燃え盛る町を美しいと思いうっとりと眺める主人公の姿にはなんとも言えない危うさも感じる。
「人でなしの恋」や「押絵と旅する男」という人外もの?もある。しかしこの二編、破滅なのか成就なのかその判断は難しい。
「踊る一寸法師」は「蟲」とは逆にプライドをズタズタに踏みにじられている一寸法師が遂にキレる。「白昼夢」同様、あまりに堂々とされると周囲の人々の正常バイアスが掛かって思考が止まるもの。
「鏡地獄」もまた何かに没頭し暴走していく男の話だが「目羅博士~」同様、果たしてこれで『自身を亡ぼさねばならなかった』ほどの衝撃を受けるのかは分からない。だが乱歩先生の頭の中ではとてつもない狂気と妖美の世界が広がっていたのかも知れない。
- 感想投稿日 : 2021年2月25日
- 読了日 : 2021年2月24日
- 本棚登録日 : 2021年2月25日
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