お探し物は図書室まで

著者 :
  • ポプラ社 (2020年11月11日発売)
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感想 : 1982
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最近お気に入りの作家さん。
行き詰まっている人々を意外な方法で再生させてきたこれまでの作品と比べて、あれ、本? 普通…と思っていたら、やはり一捻りあった。

ヒントをくれる場所が「図書館」ではなくコミュニティハウス(略してコミハ)にある「図書室」というのが良い。
本を借りるだけでなく様々な教室もあって、そこに通う人、教える人、働く人と様々な人たちとの交流もある。

今の仕事がつまらない、いつか叶えたい夢がある、出産と育児でキャリアアップが出来なくなった、自分を認めてくれる場所がない、定年退職後に何をすれば良いのか分からない…そんな老若男女五人に「図書室」の司書・小町さゆりが薦めるのは、一見彼らが求めるものとは関係なさそうな本。
例えば転職したい総合スーパーの婦人服販売員には絵本の「ぐりとぐら」、アンティークショップを開く夢はあるが仕事を辞めることに躊躇している家具メーカー経理部社員には植物の本といった具合。
更に小町さゆりが趣味で作っている羊毛フェルトの作品も一緒に渡されるのだが、「ぐりとぐら」にはフライパン、植物の本には猫と、これまた意味深な組み合わせ。

しかしここから彼らの気持ちに変化が生まれる。それまで見向きもしなかった部分を丁寧にやる、自分は苦手だと思って尻込みしていたことを一歩踏み出す、ずっと我慢していたことをぶつけてみる…など今までとちょっと見方や行動を変えるだけで自分を取り巻く環境や人や仕事が全く違って見える。
結果的に転職する人もいれば今いる場所でやり直す人もいる。また別のやり方で新たな一歩を踏み出す人もいる。

だが環境が変わっても変わらなくても本人の気持ちや取り組み方が変われば新世界。
箱入りお菓子の中身がどれほど減っても、残ったお菓子は『残りもの』ではなく最初に食べたお菓子と同じ。
最終話でリタイアした男性と小町さゆりが交わす会話になるほどと納得。
小町さゆりが選んだ本とプレゼントした羊毛フェルト作品に疑問を持ちつつも行動した彼らは、すでに再生のための一歩を踏み出していたのだ。

個人的には出産と育児でキャリアを断たれた出版社社員の話に感情移入しながら読んだ。途中ハラハラするところもあったが良い話だった。
連作なので話がゆるく繋がっているのも良い。前の話の登場人物のその後が分かったり、意外な人間関係を知るのも楽しい。
小町さゆりが出てくる作品があるようなので、そちらも読んでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドラマ 再生
感想投稿日 : 2021年4月5日
読了日 : 2021年4月5日
本棚登録日 : 2021年4月5日

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