奇譚を売る店

著者 :
  • 光文社 (2013年7月18日発売)
3.09
  • (6)
  • (36)
  • (61)
  • (24)
  • (6)
本棚登録 : 315
感想 : 74
4

作家を主人公に展開される古書絡みのミステリー短編連作。
登場人物の設定が詳しく記されないことで、最初の二話くらいは「夢オチ?」という疑問を持ちながら読むことになった。主人公が全員作家という職業で統一されている所為もある。
途中で、それぞれ違う作家が主人公なんだろうと気付いても、やはり消えない、夢の中のような雰囲気。夢のような異世のような、古書店が異世界への入口になっている感覚。
一話の長さが短すぎず長すぎず、なので、例え興味をそそられない話が含まれていても読み進められるのも良いところ。好きな雰囲気の話では、逆に「良いところで切られる感覚」が夢に近いのかもしれないとも思える。
個人的に残念だったのは、表題作…というか、この短編連作の「オチ」に当たる『奇譚を売る店』だけが、現実感を最大に纏ってでいきなり始まってしまうこと。今まで味わっていた不気味な異世界感がスパッと消えてしまった気がした。
結局全て「主人公は死に際に幻想に囚われ」、古書店の店主による「理不尽極まりない逆恨み殺害」という、……個人的には嬉しくないオチ。個人的には。
ストーリーとは直接関係ないものの、「──また買ってしまった」という出だしは癖になるものがあって、次の話のページをめくる瞬間に、口が勝手にそう呟くほどだった。主人公が古書を買う時の心情についても、思わず「わかるわかる」とい言って笑ってしまう(笑えないけれども)もので、その辺も好みだった。
──だけに、やっぱりオチの、言いようのない「覚める」感覚が好きではないかもしれない。「覚めた」状態で見るメタ発言は、ちょっと白けるものがあった。私には。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2016年7月10日
読了日 : 2016年7月9日
本棚登録日 : 2016年7月10日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする