日本の品種はすごい-うまい植物をめぐる物語 (中公新書 (2572))

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  • 中央公論新社 (2019年12月17日発売)
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なかなか面白かった。

著者はキリンビールで花の品種を開発してきた育種家。
ところで、植物の育種家のことも、ブリーダーというそうだ。
そんなことも、本書で知ったことだ。

ジャガイモ、リンゴ、ナシ、大豆、カブ、大根、そしてワサビの品種開発の話が取り上げられている。
一つ一つ、へぇ、の連続だ。

ジャガイモは栄養繁殖性。
種イモから育てる、クローン繁殖だ。
だから、病気が流行ると一気に広がる恐ろしさがある。
育種にも、安全保障的な考え方が必要だと学ぶ。
ついでに、メイクイーンのえぐみは、ポテトグリコアルカロイドなる物質のせいで、冷蔵庫の光でも増えるそうだ。
暮らしにも役立つ――!

ガンマ―フィールドなるもの。
放射線を当てて育種する施設があるそうで、そこで開発されたナシが「ゴールド二十世紀」。
二十世紀ナシの変異種だそうだ。
ナシは日本で独自進化した数少ない作物だという指摘も面白かった。
梨といえば韓国だが、あれとはかなり違うのか。

リンゴといえばふじ。
しかし、最初はちっともうけいれられなかったらしい。
今や世界的に栽培されている品種なのに、品種権の考えが未熟であったために、育種者は報われなかったらしい。
こういう話はリンゴに限らず、本書で何度か出てくる。
ついでに、サン○○というリンゴの品種名は、袋かけをしないことを意味することを知ることができて、ちょっとうれしい。

あとは、スグキとスンキが別物であることも知った。
漬物好きの人なら知っていて当然かもしれないことだが。

ワサビ嫌いの若者が増えているとも書いてあり、驚いた。
ワサビを50%以上使用した商品には「本わさび使用」、それ以下の含有量の商品には「本わさび入り」と記載されているそうだ。
で、代わりに何が入っているかというと、ワサビダイコン(ホースラディッシュ)なのだとか。
知らなかった。パッケージを観察してみよう。

それにしても、ワサビは何と繊細な作物だろう。
ほんのちょっと場所が違うだけで、育たなくなる。
現在の代表的品種は真妻という種。
だが、育種よりも栽培技術の開発の方が大変だそうだ。

しかし、メリクロン苗(組織培養で増やしたクローン苗)をハウスで育てる方法が考えだされ、今や一大産業になりつつあるという。
現在進行中の話題で、今後の展開が気になる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年4月21日
読了日 : 2021年4月18日
本棚登録日 : 2021年4月21日

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