劇場とか、寄席という場所が好きだ。
現在のものとは違う、と分かっていても、歌舞伎座に行けば、升席でちろりで燗をつけながら、一日ゆるゆると芝居を楽しんだ、江戸の人々の雰囲気を想像する。
寄席ならば…仕事が終わって、銭湯でひと風呂浴びた帰りにふらりと寄席に立ち寄った明治、大正の時代か。
今は田舎に住み、そういうところへめったにいけないから、余計に妄想が強まっているような。
さて、この作品は、寄席の舞台裏、それを支える人々がクローズアップされる。
寄席の席亭の仕事などはその筆頭だ。
出演予定の芸人が急病で代演を手配する。
マスコミからの取材の窓口になる。
芸人間のトラブルの仲裁をする。
従業員たちの暮らしぶりにも配慮する。
太神楽の「ひとろく」(真打にあたるもの)に値するかを見極める。
…どれも生半可な仕事ではない。
これを、父親の回復までとはいえ、今まで全く寄席とは関わりがなかった主人公の希美子が引き受けることになったというのが本シリーズの設定。
第二作では、手妻と太神楽の芸人が中心となる。
それぞれの芸についてのあれこれが、さりげなくちりばめられているのもうれしい。
客席のお客さんを見てその日披露する芸の演目を変える。
よい芸人にはそんな細やかな配慮もある。
そんなことを知ることができるのも楽しい。
そういえば、昔、田舎から出てきた両親を連れて池袋の演芸場に行った。
亡き小三治師匠がトリを務める日で、大賑わいだった。
チケットは当日販売。
両親は足が弱っていたので、早く歩けない。
そこで一足私が先に行って、チケットを買って席をとっておこうと思ったのだが、本来はそれができないルールのようだった。
「テケツ」のお姉さんに事情を話してみたら、通路に臨時に作った席だったら、今席をとってしまっていい、と特別に対応してくれた。
両親はおかげで最初で最後の小三治師匠の高座を見ることができた。
こんな実体験があると、この小説にあるような世界も、きっと本当にあるんだろうな、と思えてくる。
- 感想投稿日 : 2022年7月3日
- 読了日 : 2022年7月2日
- 本棚登録日 : 2022年7月3日
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