太陽を曳く馬 (下)

著者 :
  • 新潮社 (2009年7月25日発売)
3.40
  • (43)
  • (56)
  • (78)
  • (34)
  • (10)
本棚登録 : 719
感想 : 90
3

「晴子情歌」「新リア王」に連なる福澤一族の物語、3部作の最終章は彰之と秋道(シュウドウ)父子の物語であり、合田雄一郎の魂の彷徨の物語でもある。
彰之の息子・秋道は画家となり、前作から10年後、同居する女性と隣人を玄翁で殴打し殺害、女性が産み落とした嬰児も見殺しにした。
その3年後、彰之が初代代表を務めていた東京の修行施設「永劫寺サンガ」で、一人の僧侶が修行中に道路に飛び出しトラックに撥ねられ亡くなるという事故が起きた。
秋道の事件で彼を逮捕・送致した合田雄一郎は、刑事告訴された永劫寺の調査を命じられ、今また、福澤彰之と対面することになる。

殺人事件、謎の事故と一見ミステリーのような体を見せながら、9.11のテロ、オウム真理教による事件、宗教法人の姿、司法の権力などの時代背景も盛り込み、重く、熱く、物語は予期せぬ方向へと進んでいく。
言葉を尽くして美術、思想、宗教の深みをこれでもかと追究し、オウム真理教の宗教性に正面から斬り込む展開に、「事件はどうなったの?」と迷子になりながらも振り落とされないようにしがみついて行く。

合田雄一郎は出て来るけど、今までとは全く違う様相。雄一郎はといえば、永劫寺の管理責任の有無を問う調査にあたり、しっかり「正法眼蔵」を予習し、僧侶たちとガチで問答をしたあげく、検察官に「言語の意味作用」とか「表象する主体」と意味不明(←検事の言)の報告書を上げて、「いっそ警察なんか辞めたらどうです?」となじられ、挙句、税金の無駄使い呼ばわりされる始末。

亡き妻、死刑囚、事故死した僧侶の死に何故を問い続ける雄一郎と、死刑囚の息子を最後まで理解しようと思考し続け手紙を送り続ける彰之。それぞれの場所に、否、もしかすると生きて今この世にあるということにすら馴染めていないような二人はどこか似ていて、愛おしい。そんな不器用な生き方しかできない雄一郎が大好きだ~!

晴子、栄、彰之、秋道親子三代の壮大な物語。足掛け2月かかって終了しました。ふう

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:
感想投稿日 : 2020年5月30日
読了日 : 2020年5月30日
本棚登録日 : 2020年5月30日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする