バロック美術の成立 (世界史リブレット 77)

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  • 山川出版社 (2003年10月1日発売)
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当初は「バロック美術の概説書」と思い手に取りましたが、3ページ目に「本書はバロックの通史や概説書ではない」ときっぱりと書かれておりました。というわけで、高校世界史で登場するバロックの巨匠たちであるルーベンスやレンブラント、エル=グレゴやベラスケス、ムリリョたちよりも(彼らも名前は出てきますが)、イタリアの宗教画、とくにカトリックと反宗教改革(本書ではこの言葉で統一されていますが、対抗宗教改革orカトリック改革ともいう)と絡めて、カラヴァッジョやベルニーニを軸に話が展開されています。
まず著者はバロックの特徴を「ルネサンスと近代市民社会の美術のあいだにあって、写実的でありながら精神的な美術という矛盾を抱えていた」といい、「あい反する力に満ちており、科学と宗教、現実と幻影、冷静と熱狂、理性と欲望、秩序と混沌あわせもっていたが、基本的にその本質はヴィジョン(幻視。超自然的なものを見ること)の表現に求められる」としています。
バロックが登場するまでの宗教画は、反宗教改革の影響で「わかりやすさ(単純明快さ)、写実性(主題の現実的解釈)、情動性(感情への刺激)の三点」が求められるようになりました。そのため殉教者を主題したり、観者を引き込むため二重空間(一枚の絵に、現実世界と聖書のあるシーンなど宗教的なテーマの両方を書き込む)や不在効果(絵の主人公を画面外、つまり観者のいる空間に追いやることにより、観者が絵に参加している感覚を持つ)などの工夫が行われました。このような「聖書の物語や聖なる情景をわかりやすく表現し、それに現実性を与えて観者を引き込むという課題を解決したのがカラヴァッジョ」であったとしています。彼は「「二重空間」に用いられていた静物や風俗の描写を聖なる情景に融合させ、それを光の効果によって統一することで現実感を与え、また「不在効果」の手法を用いて観者を画中の一員に誘う臨場感を備えた宗教画を想像したのだった。これによって、反宗教改革的なわかりやすい宗教画に、神秘性や聖性を失うことなく現実性がもたらされた」とします。
そして「現実性を取り込んだカラヴァッジョ的なヴィジョン表現は、ベルニーニによって発展し、変質していった」としています。ベルニーニは「観者の視点に合わせて画面を構成し、画中から突出するイリュージョンや、画中に民衆や写実的な静物のモチーフを導入することで画中の空間を観者の空間に接続させること、そして・・・設置される空間の歴史や環境を考慮してこれを作品に反映させるといった、さまざまな手法によって現実空間にヴィジョンを現出させる「劇場化」を試み、・・・カラヴァッジョが絵画のみでおこなった空間の劇場化を完全に理解し、彫刻や建築を動員して完成させたといえるだろう。しかし、法悦と至福を感じさせるベルニーニの華麗な劇場は、暗く現実的なカラヴァッジョの劇場とは対照的に、狂う思惟現実を忘れさせて魂の喜びに満ちた天上の世界を希求する傾向につながっていった」とのことです。
内容は非常に絵画論的で、専門外の私にはよく分かりませんでしたが、当時の人たちが芸術にかけた情熱、芸術と宗教(これは倫理の授業では大きなテーマの一つです)がどのように関わり合いがあったのか、の一端を知ることができました。
以下備忘録
・フランスを中心に繊細・優美なロココ様式が流行したが、それは地域的に限定され、また時代的にも一過性のものであり、バロック様式が縮小した一変種、あるいは一地方様式といってもよいものであった。
・(偶像崇拝に対する宗教画は)あくまで偶像ではなく、聖像(イコン)でなければならなかった。聖像はそのものに神が宿っているのではなく、神の姿を写しているにすぎず、それをとおして神を拝むためのもの、つまり神をしのぶよすがとなるものである。聖像に向かって手を合わせても、それは像にたいしてではなく、聖像の背後にいる神に手を安房sているのである。神を見る窓にもたとえられた。
・教皇大グレゴリウス(グレゴリウス1世)は絵画は「文盲の聖書」であるとしてその価値をおおいに認めた。
・教父ヒエロニムスははじめて聖書をラテン語に訳した。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 西洋史
感想投稿日 : 2012年8月5日
読了日 : 2012年8月4日
本棚登録日 : 2012年8月4日

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