沿線風景 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2013年2月15日発売)
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感想 : 12
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原武史氏の専門は「日本政治思想史」なのださうですが、書評家としても活躍してゐますね。わたくしが購読する新聞では、毎週日曜日の読書欄にて、原武史さんの書評が載つてゐるので(無い週もあるが)必ず読んでゐます。
ところで、この新聞では年末に書評委員たちが選ぶ「今年の3点」といふ企画が毎年ありますが、原氏は3冊選ぶ事に意味を感じないと否定的な意見を述べてゐます。選ばれた3点とそれ以外の間に明確な線引きが出来ぬ、選ばれたのは偶然に過ぎぬのに、あらぬ誤解を読者に与へる、といふのです。
まあその通りなんですけど、それは承知の上で読者は受け止めてゐるのではないかと思ひます。あんまりピリピリせずに、もつと気軽にいけばいいのに。

まあそれはそれとして、この『沿線風景』も、実は書評なのださうです。
元元普通の書評連載だつたのが、原氏が事情により継続できなくなつたと週刊現代の編集者に訴へたところ、どこかに出かけながら書いてもいいぜと言はれたので、連載が無事に続けられたとか。
行先は、編集者同行といふことで、週末に日帰りできる場所に限定されますゆゑ、勢ひ関東近辺になります。しかし目的は毎回違ふので、飽きる事はありません。

書店を目的にしたり、滝山団地を目指したり、大川周明の家を訪ねたり、天皇ゆかりの地へ行つたり、キリスト看板を探したり......思ひ通りにはならぬ事や、期待外れの事もあつたりしますが、そつなく書評とからめて、愉快な読み物になつてをります。
特に「天皇」や「団地」にまつわる話はまことに興味深い。
一章一章が短い事もあり、冒頭で著者が述べてゐるやうに移動中の電車などで読むのには最適と申せませう。しかし内容が軽い訳ではなく、戦後史を考へる上での重要な指摘もあると存じます。
一風変つた「書評」として、ユニイクな一冊でした。

http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-734.html

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会
感想投稿日 : 2018年1月7日
読了日 : 2018年1月7日
本棚登録日 : 2018年1月7日

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