貧乏はお金持ち 「雇われない生き方」で格差社会を逆転する

著者 :
  • 講談社 (2009年6月4日発売)
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 少し前に読んだ『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』がわりと面白かったので、著者の旧著を文庫化を機に読んでみた。

 謎かけのようなタイトルだが、内容は要するに、個人業者の「マイクロ法人化」による節税のススメである。
 「マイクロ法人」とは著者の造語で、新会社法によって可能になった、資本金ゼロ・取締役1人の「1人株式会社」を指す。我々ライターのようなフリーランサーも、マイクロ法人化によって大幅な節税が可能になる、と著者は言う。

 ……と、そこまでならよくある節税本と同じ。本書の独創性は、企業の一員も「サラリーマン法人化」によって大幅に節税する(すなわち収入を増やす)ことができる、という主張にある。

《サラリーマン法人化とは、会社との雇用契約を業務委託契約に変え、同時にマイクロ法人を設立して、これまでと同じ仕事をつづけながら委託費(給料)を法人で受け取ることをいう。》

 著者はこの「サラリーマン法人化」を、『サザエさん』のマスオさんがサラリーマン法人を設立する、という物語形式をとることによって平易に解説していく。

 面白い提案とは思うが、本書の元本が刊行されてから2年近く経つのに、「サラリーマン法人化の事例が急増中!」なんて話も聞かないから、あまり現実的ではない気がする。まあ、5年後、10年後はどうかわからないが。

 とはいえ、本書はフリーランサーである私にも十分読む価値があった。「法人」という概念の内実について、初めて深く理解できた気がするし、随所で披露されるファイナンスをめぐるエピソードや雑学も愉しい。たとえば、次のようなものだ――。

《近代会計は、イギリス王室の税収と出費を管理するためにはじまった。十四世紀には、何百人という会計士が国王の台所を管理するために膨大な帳簿と格闘していた。やがて会計制度は一般にも広く使われるようになり、十七世紀のイギリスでは宿屋や鍛冶屋ですら複式簿記によって収入と支出を管理していたという。》

 本書のかなりの部分がさまざまな分野の先行書の引用で成り立っているのだが、それでも「他人のフンドシで相撲をとっている」という印象はない。引用を文章に組み込んでいく手際が鮮やかなので、実質は身もフタもない実用書にもかかわらず、洗練された読み物に仕上がっているのだ。このへんは、経済小説作家の著者ならではだろう。

 もっとも、本書を読んでも、私は自分でマイクロ法人を作ろうとはとても思えなかった。面倒くさいし、白色申告のフリーランサーで十分である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済
感想投稿日 : 2018年11月8日
読了日 : 2011年4月24日
本棚登録日 : 2018年11月8日

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