感染症の日本史 (文春新書 1279)

著者 :
  • 文藝春秋 (2020年9月18日発売)
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感想 : 60
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人気歴史学者が、コロナ禍をふまえ、過去の日本人がいかに感染症と戦ってきたかを振り返った一冊。

前に読んだ石弘之『感染症の世界史』の類書と言える。
偶然にも、著者にとって石弘之は義理の伯父に当たるそうだ。そのためもあってか、同書に対する言及も多い。

『感染症の世界史』はコロナ禍以前に書かれた本だから、その内容はやや羅列的で、話があちこちに飛ぶまとまりのなさがあった。
それに対し、本書は〝日本史からコロナ禍を乗り越える智恵を探す〟という明確な問題意識のもとに書かれている。ゆえに、記述に脱線がない点がよい。

著者は元々、日本における「歴史人口学」の泰斗・速水融を師と仰ぐ人。そのため、歴史人口学の観点から、日本の感染症史についても以前から研究していたという。本書にもそうした豊かな蓄積が感じられる。

コロナ禍における「給付金」「出社制限」「ソーシャル・ディスタンス」なども、その原型は、過去の日本のパンデミック対応の中にすでにあった……という指摘が随所でなされ、興味深い。

ただ、終盤の6~8章はややトリヴィアルにすぎる気がした。

その3つの章では、皇族や政治家、著名な文学者などがスペイン風邪に罹患した事例が紹介されている。だが、いまさらそうした経緯をこと細かに知っても、我々一般人にはあまり意味があるまい。

3つの章は、〝本一冊分の原稿にするための水増し〟という印象を受けてしまった。少なくとも、こんなに長くする必然性はなかっただろう。

とはいえ、全体的には良書だ。文章も平易で読みやすい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2020年10月27日
読了日 : 2020年10月27日
本棚登録日 : 2020年10月27日

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