予約しておいた吾妻ひでおの『失踪日記2 アル中病棟』(イースト・プレス/1365円)が届いたので、さっそく読んだ。
本日発売。かなり前に予約したのに、今日届いたものは第2刷だった(マニアなら怒るぞ)。予約だけでも相当売れたのだろう。
言わずと知れた大傑作にして、30万部のベストセラーとなった『失踪日記』の続編。
2005年に『失踪日記』が出た際、著者プロフィール欄に「入院後半のエピソードは続編にて」とあったので、すぐにでも続編が刊行されそうな印象を受けた。にもかかわらず、延々と待たされることじつに8年(正直、「もう出ないんじゃないか」と思っていた)。満を持しての続編である。
正編は、①失踪後のホームレス生活、②配管工事の肉体労働をしていた時期、③その後マンガ家として一度復活するも、アル中になって強制入院させられた日々――という3つのパートに分かれていた。
この続編はタイトルどおり、③の入院生活のつづき(退院まで)が描かれている。
330ページを超えるボリュームに驚かされる。正編より130ページ以上も多い。それだけのページ数でアル中病棟暮らしの後半2ヶ月間が描かれているから、ディテールはすこぶる濃密。
ただ、正編と比べてしまうと、面白さは一段落ちるかな。
正編は短いページ数の中に印象的エピソードがギュッと詰め込まれていたから、密度とスピード感がすごかった(逆に言えば「駆け足感」もあった)。対して、本書はゆったり、じっくりと描かれている。
けっしてつまらなくはなく、十分面白いのだが、正編がすごすぎた分、割りを食って見劣りがするのだ。
比較すべきはむしろ、花輪和一の『刑務所の中』だろうか。『刑務所の中』が作者自身の獄中体験を描いたものであるのに対して、本作は作者自身のアル中病棟への入院という体験を描いている、という意味で……。
優れたマンガ家が特異な実体験をマンガ化すれば、観察眼や描写力、デフォルメの巧みさ、キャラの立て方の技術によって、必然的に面白いマンガになるのだ。アルコール依存症を描いたマンガで、本作を超えるものはおそらく今後出ないだろう。
アル中の恐ろしさが身にしみるマンガでもある。酒飲みのハシクレとしてはとくに……。
たとえば、アル中真っ只中に見た幻覚の恐怖を表現する言葉――「恐ろしいと頭で考える自分の声すらも恐ろしいんだよね」は、実体験からしか生まれ得ないリアルな表現で、ゾッとする。
また、断酒1年目に突如襲ってきた強烈な飲酒欲求に、「ほっぺたの内側の肉噛んで血流して耐えた」なんて一節も、これまた恐ろしい。
『失踪日記』では悲惨な体験が突き抜けた笑いに昇華されていたが、本作は総じて笑いの要素が抑えぎみだ。
退院後の「不安だなー 大丈夫なのか? 俺……」という作者のつぶやきで幕が閉じられるのだが、それ以外にも、心に暗雲が立ち込めるような場面が随所にある。いかな吾妻ひでおでも、アル中病棟への入院という体験をそっくり笑いに転化することはできなかったということか。
ただ、全編に漂う暗さと寂寥感、ペーソスが、捨てがたい味わいになっている。
また、正編よりも絵のクオリティにこだわった作品でもある。
たとえば、コマは総じて正編よりも大きく、背景などもていねいに描き込まれている。「あじま」キャラは正編の二頭身から三頭身へと変わり、少しだけリアル寄りになっている。
正編にはまったくなかった1ページ1コマの大ゴマもくり返し登場し、それらは絵として強い印象を残す。
- 感想投稿日 : 2018年10月16日
- 読了日 : 2013年10月6日
- 本棚登録日 : 2018年10月16日
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